ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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それにしても、ギリシャ神話や聖書の話を、我々日本人は、どこから仕入れるのだろう。西洋を理解する時、絶対、必要な知識なのだが……。 学校の社会の時間ではない。昔は「倫理」という教科があって、宗教概観みたいなことをやっていたが、今、その種の教育は、ほとんど除外されている。どんな教義かの教育でさえ、おざなりになっている現在、奇蹟や神々の挿話などは触れてもあたらない。 大人になって、本物の絵画、文学に触れて、初めてその重要性を認識する。でも、気づいても、忙しくってね。実際、勉強する人は、その何分の一か。つまり、本人の努力に任されている。まあ、我々をとりまく環境が、ヨーロッパ文明オンリーという訳でもないので、必要に迫られる訳でもない。 では、日本人が日本の文化として、聖書やギリシャ神話にあたるものを、しっかり身につけているかといえば、これも悲しいことに否である。日本の神話の細かいところ、釈迦の人生の概略、一体、何時、誰に習ったというのだろう。 おそらく、ほどんどの人の知識は、幼児期の母親の寝物語や、テレビの幼児向けお話番組あたり。 でも、枕元で母から話を聞かされた子供は、随分、幸福である。稲葉の白兎の話などを、断片的に、何だか自然と知っている程度の知識レベルの人がほとんどだろう。釈迦のエピソードにいたっては、知識皆無の子供も多いのではないか。 これでいいのだろうか。 こうしたことを強調すると、すぐ保守思想だと断罪する人がいそうだが、私は国語教師である。ちょっと大げさだけど、文化の伝承を担当していると思っている。それが途絶えそうで、大丈夫かと心配しているだけなのである。
六年ほど前、敦煌の莫高窟に行った時、そこの壁画に描かれた釈迦の事跡が、我々が聞き知っている話ばかりで、中国西端の地で、子供の頃、地元のお寺さんで習った、懐かしい話をまた聞いているような気持ちになった。この砂漠地帯、極東の日本とは、何千キロと隔たった異境である。でも、仏教という文化の根っこは一緒なのだという感慨が、あの旅行で一番感じたことだった。だが、こうした基盤がない若い人が、あの壁画を見ても、おそらくエキゾチズムを感じるだけである。感想のベクトルは正反対になる。
私たちの世代は、まだ、自宅で報恩講をやっていた世代である。数年に一度、お講の当番が回ってきて、家は一日中大騒ぎだった。二階の襖を外し、座布団やお茶を用意し、提灯を玄関にぶら下げる。夜、ご近所が集まり、有り難いお坊さんの御法話を聞くのである。子供心に、今日はいつもと違う特別の日という感覚で昂奮していた。今、考えると、自分の生活の場という「ケ」が、この日だけ「ハレ」の場として機能したことへの気持ちだったのである。 私は、その縁で、浄土宗の総本山、知恩院さんがやっていた「おてつぎ運動(こども奉仕団)」に参加して、知恩院さんの講堂にお泊まりし、お経の読み方まで習った。今でも日々の勤行経の最初の数行くらいなら諳んずることができる。 反面、通った幼稚園がプロテスタント教会の経営だったし、小学校の近くに教会があったので、日曜学校にも参加していた。今から考えると、お話の宝庫である宗教は、我々の身近に常にあったように思う。 でも、今の子供達はどうなのだろう。そんな機会はあるのだろうか。 何十年か後、日本の神話や釈迦の物語の絵の横に、「八俣の大蛇は日本の神話に出てくる想像上の生き物であって〜」とか、「この絵は、釈迦の涅槃を描いたもので、涅槃とは〜」なんていう解説が張り出されているのを読まないといけなくなるのだろう。 一体、どこの国の文化なんだと言いたくなる。
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