「ひとつ国語の質問があります。「あなた(貴方、貴女)」という二人称ですが、これは目上の方に対して使っても問題のない言葉でしょうか? 私の中では、「あなた」という言葉は、同等または自分より位の低い方に対して使うもので、位の高い方には失礼だと思うのですが。見解をご教示下さい。 英語なら「YOU」で、敬称も何もないので簡単ですよね。でも、敬称や敬語というものの文化が日本語の良さのようにも思います。日本語ってムズカシイ……。」
この質問メールを卒業生からもらいました。ちょっと考えて、次のように書いて送りました。以下、貼り付けます。ペタッ。
ご質問の「貴方」について。たしかに辞書には敬語として載っていますね。でも、敬意が昨今減じているとも書いてあります。「貴様」と同じく、どんどん値が下がっている途中のようです。もちろん、「貴様」ほど、下落はしてはいないですけど。 まず、貴様についていうと、江戸時代から下落が始まり、日本の旧軍隊が目下を呼ぶときの言葉として多用して、決定的になったようです。こうした敬語の下落は、沢山あります。「あの先公、大嫌いだ」「お前なあ」など。 さて、お尋ねの「あなた」ですが、これは「山のあなたの空遠く幸ひ住むと人のいふ」などと使う「彼方(あなた)」が元です。お近づきになるのも恐れ多いくらいのエライ人という意味で、やはり、もともとは敬語なのです。 ですが、これも今言ったように下落しているので、結論的には、あなたの語感は正しいと言えます。現代の「使用の常識」という面から考えると、目上には言わない方がいいですね。 ご質問は、二人称を敬語で使いたいけど、「あなた」では失礼だし、いい言葉がないのだろうかということだと思います。 結論的に言えば、元来、敬語だったことばの敬語は、だから、あり得ないのです。いろいろ私も考えましたが、オールマイティに使えるいい言葉は、現代ではないと言わざるを得ません。 もちろん、書き言葉は、改まって使う時用ということですので、ちょっと古くさいけど、色々あります。 汝、御身、貴殿、貴君、貴兄、尊兄、大兄など。 これらは、今では、余程気を遣った手紙でしか使うことはありませんね。
実生活で二人称をどう言うか。 客なら「お客様」、あるいは「○○様」と姓に様をつける。 同じ会社内で、肩書きがある人には役職を言えばいい。「課長」あるいは「○○部長」。 直属で親しく、自分よりちょっと年上の人には「○○さん」が一番いいと思います。「さん」は普遍的に使える便利な言葉です。 こういう人の場合、その仕事分野を先行して知っているというニュアンスで、同じ学校の同窓生でなくても、「先輩」という言い方をする人が増えてきました。これは一種の拡大解釈ですが、最近、あまり違和感はなくなってきました。 先輩という言い方は、今は当たり前のように使われるようになりましたが、昔は、自分が在籍中の場合、既に学校を出た卒業生だけに使っていました。在籍中の年上のことは上級生といっていたようです。私の老父は、上級生のことを先輩と呼ぶのは違和感があると言っていました。 他に、熟成していないにことばに「貴方様」というのもあります。これは、貴方の下落を「様」をつけて食い止めようとした言葉で、字面的には「方」と「様」はかぶっていますね。あまりいい言葉ではないようです。 どれも、帯に短したすきに長しです。 さて、とっておきの解決策。 日本語は、もともと二人称をはっきりさせない、そこはかとない言い方を好む言葉なので、そもそも、言わないでもいい時は言わなければいいというやり方があります。使わないということで、この言葉の敬語不在の問題をスルーするというやり方です。よく考えると、いちいち呼びかける必要がないことも多いものです。
今はこれだけです。もう少し考えて、何か思いついたらまた送ります。今年、大人社会に入ったばかりの人ならではの実感的な疑問だと思いました。
私もちょっと勉強になりました。いい質問をありがとう。 せっかく書いたので、この質問、HP日記に転載するかもしれませんが、いいですか。 あ、もしかして、最近の日記のネタ不足を鋭く察知して、私へのネタ提供が本当の趣旨だったりして? 違う? 違うよね。
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