センター型入試問題集の文中に「欲求は欠乏の関数である」とあって、その意味を問う設問があった。「関数」という言葉を判りやすく言い直せば、生徒に説明できると思って、辞書を引いた。
「数の集合Aから数の集合Bへの写像y=f(x)のこと。Xを独立変数、Yを従属変数という。Aが複素数の集合ならば、特にfを複素変数関数という。Aとして2次元空間、3次元空間、…の部分集合をとる時は、2変数関数、3変数関数、…(総称して多変数関数)という。」(広辞苑)
文系の私には何やらよく判らない。よく使う言葉だから誰でも漠然としたイメージくらいはもっているのだが、こちらが予想した説明とえらくかけ離れている。そもそも、説明が難しすぎやしないか。小学生が初めて関数を習い、関数ってなんだろうと辞書を引いたら、目が点になること請け合いである。 後半の説明は、副次的なものだから置くとして、前半では、y=f(x)だけが親しい。ただ、これでは国語的な説明にはならない。説明の心臓部は「写像」という言葉だけである。つまり、関数とは「写した像」だといっているのだ。なんだか比喩的・文学的な表現だと感心したが、どうやら、そうではなく、ちゃんとした数学専門用語のようである。 そこで「写像」も繰ってみた。こちらの説明も難しい。そこで、別の辞書でも引いてみたが、どれも似たり寄ったりだった。 私が漠然と思っていたこの言葉の説明は、おそらく、こうだ。
「Aに規則や数式を与えることでBがそれに対応して変化すること、数学ではy=f(x)と書き、このfがその規則にあたる。」
これでダメなのだろうか。まず、日常的に使われるのは、この程度の意味である。 辞書を引くと、時々、ぴったり感がなくてもどかしさを感じる。辞書の役割として、その言葉の厳密な定義を押さえなくてはいけない。かといって、それでは、場合によっては難解となる。引く人も、だいたい通常使われている意味を知りたい人と、そのくらいのことは知っている、厳密さを求めて引いたのだという人もいる。そのどちらも満足させるのは、なかなか難しそうだ。 この日記で何度も嘆いていることだが、本当にこれはいいと感じる辞書はない。私の場合、電子辞書の「広辞苑」でピンとこなかった時は、「新解さん」(三省堂)を繰ってみる。表現・用法的なことは「明鏡」(大修館)や「表現読解国語辞典」(ベネッセ)を。事典的なことは、まず、パソコンでお手軽にフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』を見、用を足さないときは腰を上げて書庫に赴くというのが、最近の調べ方のパターンである。 言葉の辞書的意味だけで、この設問を説明しようとした目論見は外れた。別の角度から理屈を考えなくてはならない。 簡単な設問一つ、たった数十秒で説明して、すうっと通り過ぎているところも、実は、こちとら、ゼイゼイ言いながら調べている。生徒さんは、授業をあだや疎かにしないで戴きたい。(と、ちょっぴり押しつけ調。) 昨日今日はセンター試験。好天に恵まれた。さて、首尾はどうだったか。
(追記……私のこの定義を読んだ愚妻、それでいいけど、xが変化してもyは一定という関係もあるよ。そっちが足りないんじゃない? 「理化学辞典」(岩波書店)に三十八行ほど説明が書いてあるけど貸そうかとのたまったが、わたくし、丁重にお断りいたしました。)
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