ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
内容は、文学・言葉・読書・ジャズ・金沢・教育・カメラ写真・弓道など。一週間に2回程度の更新ペースですが、休日に書いたものを日を散らしてアップしているので、オン・タイムではありません。以前の日記に行くには、左上の<前月>の文字をクリックして下さい。
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定番にしている現代文の教材に、川田順三「手作り幻想」というエッセイがある。手作りイコール手間のかかったよいものというのは今や幻想であるという内容で、その中に、ちらりと民藝運動の功罪めいた指摘が入っている。「用の美」「雑器の美」という定番の言葉で解説はするのだが、そのたびに、もう少し民藝について理解を深めたいと思っていた。 この本、民藝研究家を監修者にして、前半は、民藝運動の考え方や歴史を平易に解説、これを総論とし、後半は、現代に生きる民藝的センスの品々を紹介する。勉強もでき、女性誌あたりを読む気分で気軽に「もの」ガイドを楽しむこともできるというところが戦略的に上手く、堅苦しくない入門書である。他に、この「あたしい教科書」シリーズとして「雑貨」「本」「ことば」「住まい」などが出ている。 読むと、案の定、民藝の概念は、運動参加者各々多様で曖昧な概念のようだ。この本によって全体像は把握できたが、自分なりに、つまりはこういうことだという確固たるイメージのまとめはできなかった。 反面、後半の、色々な人が「新しい民芸」としてチョイスしている品々を見ていて、自分なりに発見があった。土瓶、曲げもの、竹カゴなど、従来の民藝のイメージで括れるものも多く紹介されているが、洗剤のポリタンクやステンレスとゴムでできた灰皿なども選ばれている。それらは、おそらく、これまでの概念と対立する大量生産の工業製品である。しかし、シンプルなデザインの美があり実用にも適する。これも、現代では民藝の概念に入れてもいいのではないかという提案的な考えで選ばれたのだろう。 そう広く考えると、民藝は戦前の藝術運動、あるいは、戦後一時期到来した民藝ブームといった過去のイメージで捉えるのではなく、現代にも脈々と流れている精神のように思えてきた。例えば、西武系生活ブランド「無印良品」の虚飾廃止デザイン、昨今の和のブームやアジアンブーム、それに、定番のモダンリビングの思想、初期の「ユニクロ」のシンプルさまでその視野に入るのではないか。 工業製品に囲まれた現代に生きる我々、ストイックに手作りに拘泥する必要はない。長く愛着を持って使える手作りの良品を中心に据えつつ、気に入った工業製品も積極的に取り入れていく。つまりは、何事も無頓着にならず、自分の生活や意識を、身の回りの「もの」に押し広げ反映させていく持続的な態度こそ大事だということなのだろう。そうしたメッセージをこの本から私は受け取った。 おそらく当時の民藝運動の人々は、日本やアジアの生活文化を根底に、北欧のデザイン感覚なども包含した美意識で考えていた。現代のシンプルライフの思想などと一緒に括るには多少無理もあるかもしれないが、広い意味で、この運動の精神はライフスタイルの問題に帰着する。そうした意味では、現代人は立派に民藝の精神を受け継いでいるような気がしてならなかった。 おそらく出版の意図もそこだろう。現代の生活スタイルを民藝という概念で捉え直す。実によくできた企画である。
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