十一月中旬、父が死去し、以降、忙しい日が続いた。 我が家では祖母以来三十五年ぶりの不幸で、これまで親戚の葬儀などで少しは見知っていたが、いざ当事者になると、わからないことだらけだった。特に、通夜が終わった夜、翌日の葬儀のことを眠たい眼で決めなければならないあたりが、体力的にも一番きつかった。例えば、電報の読み上げを取捨選択するのだが、残された家族にとって故人の業界について深く知るところではないため、強弱の度合いが判らず呆然とした。
我が家はそれでも、男手女手がそれぞれいたのでなんとかなったが、核家族の場合、大丈夫なのだろうか。 親類の話によると、東京では密葬で済ますことが多くなっているそうだ。今の葬儀システムは、古い家族関係を基に成り立っているところがある。 葬儀の翌日からは御挨拶回り。黒服黒ネクタイで各所にいくと、それだけで来意がはっきりしているので、事前説明がいらず、思ったよりスムーズに事が運んだ。 後日、遠路、遅れて弔問にこられた親戚の方もおり、親の忌引き規定通り、一週間、めまぐるしい日々を過ごした。
一年ぶりに家に戻りしを見て 刀置き錦の織物掛けられて死に給う父は家にいませり
通夜の日 「湯灌の儀」古き習わしなると云うつまりは移動介護入浴
通夜終わりて夜 逝くならばすっかり教えてからにせよ誰が上位か判らぬぞ息(そく)は
葬儀終わりて 居間に入る炊飯の香にて目覚めけり父の葬(はぶ)りを終えたる朝(あした) 慌忙(こうぼう)の葬礼終わりて鈴(りん)たたく初めて遺影を見るが如くに 祭壇の遺影のチョイスよかりしと褒められしこと遺影に語りぬ
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