生徒が、最近、気になる日本語に「犬より猫のがいい。」という言い方があると報告してくれました。ネットでは当たり前のように使われていて、彼自身、衝撃を受けたと言うのです。彼によると二、三年前から目立ってきたそうです。 私はびっくりして、「のがいい」でネット検索してみました。確かに大量にありました。もちろん、中には、まったく問題ないものも多い。
「この中では、ブルーのがいいかもね。」
この「の」は、「体言の代用」という用法で、「〜もの」という意味。「これ、俺の。」の「の」です。冒頭の猫の例でも、「犬のぬいぐるみより猫のがいい」だったら、問題はないですね。「ぬいぐるみ」ということばのかわりだから。 間違いは、例えば、こういうもの。
「絶対、大企業に雇ってもらうより、起業のがいい。」 「二度寝と昼寝。朝の二度寝のがいいかなあ。」 「頭の良い人より頭の回転が早いひとのがいい。」
ほとんど比較の用法に集中し、本来、「のほう」という言葉を入れるべきなのに省略してしまった形のようです。指摘してくれた彼は、「のほう」と、流れるように発音すると、「のー」とのばした言い方に聞こえるので、それに由来しているのではないかと推測していましたが、どうなのでしょう。 私が推測したのは、次のようなものです。例えば、
「洗顔をした後、化粧水の前に使うのがいいみたい。」 「目の健康を考えるなら 定期的に泣くのがいいみたいです。」
という言い方で考えましょう。この文は問題ありませんよね。この「の」はやはり「〜ということ」という「体言の代用」の用法でしょう。ただ、これは、「ということのほう」という言い方でもあてはめることができますね。つまり、「定期的に泣くことのほうがいいみたいです。」となります。もちろん、この「ほう」は、特に何かと何かを比較している訳ではなく、今、はやりの朧化表現の一種でしょう。そういった「方面」とか「方向性」とかいった程度の意味。おそらく、その表現が比較の「ほう」と混同されて、「の」だけで「〜のほう」の意味もあると勘違いされ、堂々と比較の用法として使われたのではないでしょうか。
国語学者でもないので、専門の方はどう分析されているのか。もしかして、とっくに分析済みのことなのかもしれません。ちょっと気になります。今はまだ、有名ではありませんが、いずれ話題になりそうな誤用ですね。 レジでの「千円からいただきます」の「から」みたいに、なし崩し的に定着していくのではないかと、今から心配です。
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