ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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半月程前に観たお芝居の感想文。やっと書き終えてアップ。 リニューアルされた野々市文化会館フォルテに初めて入った。床のタイルが薄ピンクとなるなど、色合いが違っているが、全体はほとんど変わらず、汚れて古ぼけて見えるところを新しくしてリフレッシュしたといった印象。 話は、古い仏蘭西映画を日本に置き換えたもの。昭和十八年に夫が出征したまま戻ってこない女主人公、東田綾子(川口敦子)は、戦後、昔と同じ場所で喫茶店を再開して、夫の帰りを待った。十年以上の月日がたったある日、夫とよく似た記憶喪失の浮浪者(中野誠也、演出も)と出会う。親戚などがはっきり本人かどうか判らないという中、彼女は確信に近いものを感じ、彼の生活を追跡しはじめる。 時代は昭和三十年代前半。映画「三丁目の夕日」と同じ頃のことである。オリンピックの開催が東京に決まったというような時事ネタが時に入ってくる。世は、徐々に上向き傾向。そんな中で、戦争浮浪者は少しずつ珍しい存在になりつつあった頃である。 彼女の思いは、ほとんど「思いこみ」に近く、これまでの彼女らしさをなくして、この男の記憶をなんとか戻そうと躍起になる。 この物語に、我々は、夫を思うひたむきな女の愛を感じればいいのだろうか。あるいは、戦争が終わっても、出征した男、待つ女、それぞれに戦争の傷跡は深いのだというのがテーマなのだろうか。 また、あるいは、女の独走を、喫茶店に集う常連客などは客観的に見ており、のめり込んでいく異常さを浮き彫りにしているようにも見えるので、昔にこだわってはいけない、元の生活に早く戻るべきだと言っているようにも感じて、どうもそのあたりは判然としなかった。 それにしても、彼女はどこが似ているから夫だと思ったのだろう。そのあたりの説明はなかったように思う。人は似ていると思った時、どこそこの面影が似ていると特徴を言うものである。その点、何にも言わないのは、些か不自然だったように感じた。 喫茶店に集まるメンバーがワイワイやっている様子は、何とも楽しげで、実にうまく描かれる。それに反して、彼が浮浪者ながら規則正しい生活をしているということを示す場面は、ずっと無言の演技が続き、且つ、たいした演技でもないので、かなり退屈であった。 舞台装置はよく出来ており、また、舞台転換もよく考えられてる。効果音もなかなかよい。演技で見せようという心意気も感じられ、総じて、演出は演劇として正攻法そのものだった。しかし、今言ったように、ちょっと間延びした感あり。ただ、その箇所が演出家自身の演技なので、誰もそこを刈り込もうとは言えないのだろう。演出を兼ねる芝居によくあるパターン。 戦災から免れた鳥越地区。こちら石川県では白山麓の村の名前なので、言われる度にちょっと戸惑った人も多かろう。後でどこか場所を確認した。 東京、JR浅草橋駅の北、蔵前橋通り。橋向こうの関東大震災復興記念公園。その付近に以前、通勤していたことがあるので、本当に目と鼻の先を毎日うろうろしていたのだが、残念ながらその辺りには行ったことがない。鳥越神社は都内最大の重量級御神輿が有名らしい。 この物語のクライマックスに設定されるその神社の例大祭は、まさにこの芝居を観た六月前半に行われるという。三社祭に並ぶ下町のお祭りということで、どんなお祭りだろうとパソコン検索を続けると、今年は、東日本大震災の影響で中止になったとのこと。 戦争が人と人とを引き離したお話を調べていると、人と人とを引き離した現実の大地震が絡んでくる。昔、復興記念館で被災して親を亡くした子供の作文を読んで胸がつまった覚えもあって、関東大震災、戦争、そして今度の震災と、私の心の中でそれらが糸のようにつながって、人が人として恙なく一生を送る幸せに思いを致した。
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