ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2005年10月03日 :: ピーター・タウンゼント「ナガサキの郵便配達」(「ナガサキの郵便配達」を復刊する会)を読む。 |
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敗戦記念日の日記に、原爆のことを書いた。その時、三省堂の大判教科書に載っていたピーター・タウンゼント作「ナガサキの郵便配達」についてちょっと触れた。あれを書いてすぐに、この本が再刊されるというニュースを見つけ、ちょっと因縁を感じて、早速、注文した。 正規の書店販売ではなく、復刊する会に電話をして送ってもらい、振替で現金を送る方式。流通にのらない自費出版である。本を買うのではなく、協力金としてということらしい。下らぬ雑本が溢れる出版界。原爆を生き抜いた青年の人生を追ったドキュメント一つ、流通にのらないのかと思うと、戦争の風化を感じ、情けなさひとしおである。この復刊によって洛陽の紙価が高まらんことを期待したい。
今回、改めて全文通読してみると、教科書で読んだ時と、微妙に印象が違っていた。 教科書は、途中、梗概を入れる形の抜粋で、かなりの長文が載っていた。主人公谷口稜曄(スミテル)の人生の劇的な部分だけをうまくピックアップして作られていたようだ。被爆の瞬間、周囲の惨状、燃えさかる市街地、驚異的な生命力、その後の人生……。 しかし、この本は、彼を襲った惨禍だけを細叙した作品ではなかった。戦争開始までの経緯から筆を起こし、開戦、戦局の動向、日本の軍閥が国政を席巻していく様子、米国のマンハッタン計画に対するトルーマンの軽挙妄動にも多く筆を割いている。そうした両国の指導者層の洞察のなさが、結局、長崎に原爆が投下された原因になっていると跡付け、その犠牲になった、何の罪もないのに大きく人生を狂わされた市民の象徴として、スミテルが選ばれているのであった。 どうやら、この作品は、極東の政治的事情に疎い、英仏両国民に、日本の太平洋戦争と原爆の意味を分かりやすく俯瞰してもらい、目を向けてもらうために書かれたドキュメンタリータッチの太平洋戦争概史であるというのが正しい位置である。 日本の狂信的軍国主義者によって挑発されたものの、それに乗って世紀の犯罪を犯した張本人は、原爆を破壊力の強い爆弾だというようなレベルでしか理解していなかったトルーマンをはじめとするアメリカ好戦派の連中だと彼は断罪している。不必要な一般市民の大量虐殺をしたという点で、「テロリズムそのものではないとしても、非常にそれに近い」行為だとするのである。 「訳者あとがき」によると、「原爆とその後遺症がいかに恐ろしいものであるかがはじめてわかった」という仏国著名誌の書評があったようで、その好意的書評から、逆に、欧州ではそういったレベルでしかないのだという感慨を強く感じた。 この作品、確かに、スミテル青年の生き生きとした描写は、この作品に存在感を与えたが、長崎原爆記録の古典として、すぐに定着しなかった理由もどことなく理解できたような気がした。かなりの部分を占める、太平洋戦争の全体像の描出と意味づけより、個々の被爆体験をじっくり描いてくれれた方が、日本人にとっては有り難かったのではないかと感じないでもなかったからである。 ほかに、刊行が1985年で、この手のものとして、かなり遅かったこと。外国人の聞き書きということで、どうしても細かいニュアンスに違和感がある部分があり、それも早期廃版の理由かと思われた。 取材したタウンゼント氏は、エリザベス女王の妹、マーガレット王女との恋愛で、昔々、英国全土の話題となった第二次世界大戦の英雄(空軍大佐)。どこかで聞いたことのある名前だと思ったのは、違っていなかった。 その作者氏、訳者氏ももう鬼籍に入られた。命拾いしたスミテル青年のほうが未だご健在で、聞きに来る人に、淡々とあの時を語っているそうである。 この本、今の生徒にも読んでほしいと思ったのだけれど、流通にのらない本は、学校図書館では、公費の関係で購入できない。 なんとかならないものだろうか。
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この日記には教育についてのコメントが出てきます。時に辛口のことも多いのですが、これは、あくまでも個人的な感想であり、よりよい教育への提言でもあります。守秘義務や中傷にならないよう配慮しているつもりです。 もし、問題になりそうな部分がありましたら、メールにてお知らせください。
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