ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2006年04月11日 :: 浅の川園遊会を見に行く |
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春のイベントとして市民に定着してきた浅の川園遊会。もう二十年目を迎えるという。私の学生時代にはなかった行事で、新年度の忙しい最中にあることもあり、ニュースで見知っている程度。じっくり見てまわったのは、四年前が初めてだった。その時は、銀塩カメラが片手にあった。 金沢は、犀川文化と浅野川文化と大きく二つに分かれる。犀川より南に住まいする我々にとっては、地元のお祭りという感じはしない。出し物のアナウンスを聞いても浅野川界隈の校下がほとんど。だから、逆にお出かけ感が出てよいとも言える。 先に書いた通り、今年はどんどん外に出ようというということで、被写体狙いで、デジタル一眼レフを買った時から行くつもりでいた。九日日曜日。お天気も上々。 大通りの方は歩行者天国になっており、色々なパフォーマンスが繰り広げられている。子供梯子登りの育成をしているという話は、ずっと前にテレビでやっていて知っていたが、見るのは今回が初めて。命綱の差し方を忘れて、あっちの踏み木、こっちの踏み木と差しなおしている様子が、微笑ましい。みんな、じっと待っていてくれている。 その観客の横を、茶屋のお姉さん方とおぼしき粋筋の女性たちが通っていく。夫婦共々、その美しさに見とれる。全然、世界が違う。 一通り冷やかしてから、見物客で鈴なりの河川敷に移動する。川の中央にしつらえられた浮き舞台を右岸後方から見る。東や主計町の芸妓による日舞が艶やかである。これまで、興味をもって見たことはなかったが、踊り手の和服の色まで寒色暖色案配されていて、日本の伝統美を感ずる。表情にも無駄がない。望遠レンズで眺めているからこそ判る美しさ。私も、こうしたもののよさがわかる年齢になってきたのかもしれない。 例年通り、滝の白糸の水藝がクライマックスである。横から見ているので、最初、黒子が女太夫にビニールチューブを取り付けているのが見える。昔はどうしていたのだろう。 もちろん、これは、泉鏡花『義血侠血』に因んでいる。小説では、当時の様子を、以下のように描いている。
金沢なる浅野川の磧(かわら)は、宵々ごとに納涼の人出のために熱了せられぬ。この節を機として、諸国より入り込みたる野師らは、磧も狭しと見世物小屋を掛け聯ねて、猿芝居、娘軽業、山雀(やまがら)の芸当、剣の刃渡り、活き人形、名所の覗き機関(からくり)、電気手品、盲人相撲、評判の大蛇、天狗の骸骨、手なし娘、子供の玉乗りなどいちいち数うるに遑(いとま)あらず。 なかんずく大評判、大当たりは、滝の白糸が水芸なり。太夫滝の白糸は妙齢一八、九の別品にて、その技芸は容色と相称(あいかな)いて、市中の人気山のごとし。されば他はみな晩景の開場なるにかかわらず、これのみひとり昼夜二回の興行ともに、その大入りは永当(えいとう)たり。
「野師」は、普通、香具師と書く。てきやのこと。「永当」は、人気が衰えないさま。怪しげな出し物が河原に軒を連ね、大繁盛していた様子が窺われる。 昔、この辺りが金沢一の栄えたところだったという話は、子供の頃、よく祖母に聞かされていた。今、マンションが林立している左岸には、芝居小屋が立ち並んでいたそうで、私の高校生の頃まで、そこは映画館となってわずかに命脈を保っていた。その映画館が潰れた段階で、あの辺りは完全に市民の遊興の場ではなくなっていた。 この園遊会という優雅な名前のイベント、だから、地域の復活をかけた、一種の賑わい創出事業なのである。 野々市に椿があるように、ここにも、京都を模した金沢東山文化がある。今回、武蔵が辻交差点から歩いて行ったのだが、尾張町から橋場町、東山の大通り一帯は、今でも古風な店構えの専門店がご商売を続けている。観光地区の茶屋街だけでなく、それを取り巻くそうした古いお店の佇まいの総体が、金沢の町の落ち着きを作り出していることに気づく。郭だけ古くて周囲はビル乱立では、白けるだけである。 金沢を旅して、よかった、落ち着いたいい町だと言って下さるのは、そうした保護や助成を受けているわけでもない周囲の地域住民の意識の高さにあるように思う。そうした気持ちを高める上でも、このイベントは意味のあるものだと思った。
お花見散らし弁当を購い、夫婦でコップ酒一杯を分け合って飲みながら、河川敷で華の舞台を眺める。コンクリに直座りで腰が痛いのは如何ともしがたいが、例年よりちょっと遅い三分咲きの桜を愛でながら、春を満喫した一日だった。 今年、満開あたりで、もう一度、花見がしたいものだ。ウイークエンドまで保つか、気温の推移が気になる今週である。
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