ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2007年07月03日 :: 劇団昴公演「台湾の大地を潤した男ー八田與一の生涯ー」を観る |
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高文連文化教室で、台湾の治水に尽力した郷土の偉人八田與一の人生を描く劇団昴公演を観た。於金沢厚生年金会館。 物語は、結婚から始まり、計画段階、現地との摩擦、事故、完成、そして戦時中の死までを、各々場面に区切りながら見せる。彼の人生がこの物語を観ればおおよそ判るという「略歴年譜」を思い浮かべることができる直線的な展開で、地元民として勉強になった。市内の文化施設「ふるさと偉人館」で勉強したような気分だと思ったら、脚本家(松田章一)は、現在、その偉人館館長の職にあるそうだ。地元脚本だけに、時に、金沢話題や方言が無理のない程度に出てきたが、嫌味がなく、効果的だったように思う。 地元新聞などで、よく「八田技師」という言い方を目にするので、もっと個人的な立場から努力をした人かと思っていたら、植民地民と融和的に統治を進める後藤新平率いる台湾総督府の意向を踏まえた政策的一大プロジェクトのリーダーというような立場だったことに意外の感を持った。 物語は破綻なく纏まっており、感動的なシーンも用意されていたが、特に感激すべきものではなかった。一緒に観た人も同様のことを述べていたが、色々盛り込みすぎて、一つ一つを深める作業がなく焦点がぼけている憾みがある。以下、改善のために、お節介な指摘をいくつかしたい。
前半、現地台湾人の反発が描かれ、自宅に押しかけてくる。どう展開するのかと思っていたら、部下に任せると言ったまま暗転になり、次からは、関東大震災で工事が中止された苦悩の話に移る。途中からは、最近は現地民も協力的だという話になって、このモチーフは終わっている。同様に、八田は常に日本人スタッフを相手にしているだけで、現地の人とのコミュニケーションがほとんどない。これでは、現地の人が彼に恩義を感じているということの実感が観客に湧かない。 トンネル事故の場面も、現場ではなくあくまでも室内。楽な設定だが、ダイナミクスに欠ける。せめて一カ所くらい大きな舞台転換があってもよかったのではないか。
また、主人公は多数の死傷者で悩んでいるが、死んだ者たちとのコミュニケーションを伏線として前半に描いていないので、彼の悲しみに感情移入しづらい。 八田は、戦争中、乗っていた船が沈められ、死体が山口県沖で操業中の漁船の網にかかるという死に方をした。すると、ラストの場面では、反戦のモチーフがさっと現れる。 つまり、全体として、その場面場面だけでモチーフを配して描いているので、散漫な印象となるようだ。 これに対して、全体通したテーマとして「夫婦愛」がある。特に中盤部、彼が悩むところで、精神的に彼を支える内助の功が発揮されている。ただ、最初から彼は猪突猛進タイプとして描かれているので、悩みと立ち直りが、お定まりの作劇法のように感じられた。中盤部の夫婦のイチャイチャも観ていて恥ずかしかったが、他の人は如何だっただろう? 夫唱婦随タイプの愛が、これを観た若者にすっと入ってきたかも聞いてみたい気がする。 ラストの残された妻の投身自殺に至る独白も冗漫という意見が多かった。「貴方はダム」という台詞など少々説明調である。
最初から最後まで、この主人公は意欲的なリーダーシップのある偉い人であった。妻も、冒頭、十六歳の嫁入りから台湾行きを決心する立派な人。人間的に弱い人のほうが芝居には向いている。そのあたり、崩しようがなかったのだろう。「ふるさとの偉人」を描く脚本は大変な苦労があったと思う。 後日、観劇感想文を読んだ。人のためという高い志に向かって、力強く前進していく彼の生き方に多くの高校生は率直に感激しているようだった。そうした主人公自身が持つ精神の在りようの魅力は何ものにも代え難いパワーがある。このストレートさこそこの劇の美点だと思う。妄言多謝。(2007.6.25)
(「かあてんこおる」の項にもアップしてあります。)
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