(書評)『女ざかり』丸谷才一(文芸春秋社刊)(1700円)
面白くてためになる新しい情報小説
著者十年ぶりの長編小説。その前は『裏声で歌へ君が代』(新潮社)、その前は『たった一人の反乱』(新潮社)。著者は十年に一本長編をものにしようと決めているかのようである。待ちわびていた読者も多いらしく、ロングセラーを続けている。 この物語、女ざかりの新聞解説委員の書いた妻の不倫容認を匂わせる社説が発端となって、政府から圧力がかかり飛ばされそうになったのを、幅広い彼女の「男友だち」(もちろん世間にはばかる関係の男も含んでいる)の人脈を利用して防ぐという粗筋。 しかしながら、この物語に、職業女性の生き方についての示唆を求めると肩すかしを喰らうことになる。話は与党幹事長までが絡む、一般の女性とは縁遠いもの。特に彼女が、キャリアウーマンとして新しい生き方を標榜しているという訳でもない。人物は、多くの場合、類型化、戯画化されている。 著者は、どうやら<情報小説>として、この小説を企図しているようだ。ある章では政治論、ある章では経済贈与論といった具合いに−。 難しい観念論も談笑の中にないまぜにすることで、風俗レベルで、われわれに理解させてしまおうという感じなのだ。話題は雅俗に及ぶが、このため、一冊の小説の情報量としては極めて多いものとなった。 また、文体や表現面でも読者に面白がってもらおうと色々な工夫を凝らしている。例えば、一、二、と、まるで報告書か何かのように、登場人物の気持ちを箇条書してあるのには微苦笑させられた。 評者は、だからこの小説を、惜しみながら寝る前に少しずつ読んでいった。寝酒に旨い秘蔵のブランデーを味わうかのように。 そんな読み方をお奨めしたい。 「VISION」
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