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書評・北陸の同人誌評

  この頁は、「書評」と「北陸の同人誌評」を掲載しています。
 「書評」は、文学誌「イミタチオ」誌に掲載された「北陸の本」、教育機関のパンフレットの掲載されたもの、ミニコミ誌に掲載されたものと初出はさまざまです。
  「北陸の同人誌評」は、同じく文学誌「イミタチオ」誌に掲載された「北陸の同人誌評」コーナーが初出です。

  (書評)阿川弘之「志賀直哉」(上)(下)

(書評)「志賀直哉」上下巻 阿川弘之著  岩波書店 各一八〇〇円
            

 今年、吉行淳之介が逝った。安岡章太郎も病気療養中であるという。二十年程前、純文学に、軽い読物にと、硬軟とりまぜて大活躍していた<第三の新人>たちにも老いの影が濃い。
 阿川弘之が志賀の末弟子であったことは有名だが、これまでまとまった著作はなかった。恐らく自分の一番大切な持ちネタを、長年、培った技量を生かし、且つ筆力の衰えない最良の時期に執筆したいという人生設計があったのだろう。『図書』連載中は、読者の指摘に答えたりと随筆的な味わいの残るものだったが、単行本化に際し、そうした部分が推敲され<伝記文学>としての完成度が高まった。特に文体の簡潔な美しさは師の衣鉢を継ぐもので、しばしば志賀本人が書いたのではないかと錯覚した。
 作品は、海軍提督三部作等で周知の、この作家らしい実地を踏まえたもので、会話の続く小説的と思われる部分も信憑性を強く感じる。また、謦咳に接した晩年に関しては、自分の知り得たことを書き残して置かなければという意思が感じられ、生彩に富む。
 作者は、この作品を「文字で描いた亡き先生の肖像画」と呼んでいる。作品の詳細な解読は「暗夜行路」のみに押さえ、人物の彫り込みに焦点をあてている。このため、志賀作品のよい読者でなくとも心配はない。
 これを読むと、明治文学者の努力の結果、地位を高めた<文学>というものを、如何に、志賀が純粋に信じ、且つ自己を信じて生きた、羨ましいまでに幸福な人間であったかを痛感する。描かれた挿話に、何度、「ああ、大正の文学者だな」と思ったことか。
 七月に発行されて以来、ロングセラーを続けている。書評も多い。「伝記文学の傑作」と最大級の賛辞を呈するものもあり、今更と迷ったが、やはり今年一番のお奨めとして紹介したい。

 

(平成6年秋)                                                                           「ビジョン」

    [1] 
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(永井龍男宛安岡章太郎自筆サイン入り本 運営者所有)

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