(書評)市毛良枝「山なんて嫌いだった」(山と渓谷社 1400円+税)
登山で見つけた生き方への自信
中高年の登山ブームである。毎年楽しく参加していた「夏山のつどい」が、数年前から、突如、超満員になって、それを実感した。 このブーム、前回ブームの担い手だった若者が定年となり、四半世紀ぶりに再開したためと山の雑誌は分析しているが、確かに、登山の専門店にいっても、客は中高年ばかり。外国製ザックなどの高価な品を手にとっている。 出来上がるのは、新品フル装備の初心者、運動不足付きである。今夏の白山で(私も含め)そんな人達を沢山見かけた。
この流行、アウトドアブームの末期的変種といえる。例えば、バーベキューコンロは今や過当競争の結果、二千円台で買えてしまうが、登山用機能性シャツは一万円はくだらない。バーベキューに飽きて本格を目指したと言えば聞こえはよいが、チープなイメージが漂いはじめたオートキャンプ用品を嫌い、高価で機能的な登山用品に食指を伸ばしたという消費の精神構造もほの見えてくる。つまり、登山は最後のトレンドなのである。 (かくいう稿者も、ついつい買って、うかうかこの夏白山に登り、こうして山の本を紹介している……。)
この本は、有名な女優さんの山の随筆集。初めての山行きからキリマンジャロ登山まで、登山者としての成長の歴史が語られている。しかし、それ以上に、平凡な性格の自分が、華のある女優という仕事を続けていくことへの懐疑、離婚のトラブル、そうした<低空飛行>中、山に出会い、自然に優しい生き方を見つけ、悩みから抜け出していく再生の物語でもある。
山好きでなくても、美しい写真を見ながら楽しく読むことができる。美しい山、そこに佇む美人さん。それこそ絵に描いたような山写真がステキ。ただ、くれぐれも自分が写真の主人公になれると思って山には行かないように。念のため。 (「ビジョン」書評欄掲載)
|