(北陸の本)「ふるさと 石川の文学」金沢学院大学日本文学研究室編
北国新聞社刊(二〇〇三・四・二三) (一六〇〇円)
地元、金沢学院大学文学部日本文学科の教授陣が中心になって編纂された石川の文学ガイドブックである。文学離れの著しい高校生にも使ってもらいたいという編集意図が十分に反映され、読んで楽しく、勉強にもなる。 実は、この種の本、あるようでなかった。今から四半世紀ほど前、県下の高校国語科教員が中心となって、石川の文学を紹介した副教材用の小冊子が発行されたことはあったが、それ以来、高校生にも視野を置いたものは久しぶりである。 内容は、「石川のことば」概観からはじまり、「万葉集」から唯川恵まで、幅広く網羅されている。特に、近・現代文学は作者別に紹介されており、本書の中心をなしている。紹介も抽象的な説明を避け、的確な引用によって、わかりやすく納得できるもので、<読み物>として読んで面白い。このあたり、編集の苦心のところだろう。途中、大学生と先生による対話形式の文学散歩コーナーや、石川の文学を調べる検索ガイダンス、「恋愛の舞台」などコーヒーブレイク的なコラムも織り交ぜ、読ませる工夫が随所に見られる。巻末の「参考文献」も適切で、実用性も充分である。同大の大学生も執筆に係わっており、学生と先生方が総力をあげて取り組んだ様子が感じられる。価格も、手間のかかった本にもかかわらずリーズナブルで、多くの人に読んでもらおうという配慮が感じられる。 石川や金沢の文学を取り上げた本自体は、現在、流通しているものだけで数種類ある。例えば、金沢市企画「文学への旅 金沢ー名作の舞台」(能登印刷出版部 平一二)は、金沢文学散歩の紹介といった趣であり、当研究会編「ミリアニア 石川の近代文学」(能登印刷出版部 平一四)は、石川の文学の代表作アンソロジーであり、内容は重なっていない。 そうした類書の中で、本書は、石川の文学を調べる基礎資料として、まず、繙いてみる「文学研究必携」本として位置づけられよう。いささか手前味噌であるが、もし、本書で気になる作家を何人か見つけたら、「ミリアニア」で実際の作品に触れてみることをお勧めする。この二冊を手元に置けば、それで、石川の文学の概観がさしあたりできるはずである。 (文学誌「イミタチオ」第40号 平成15年7月)
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