(書評)丸谷才一対談集「大いに盛り上がる」(立風書房)
盛り上がりながら力をあわせて大切なものを探究
何といってもタイトルがいい。今まで本の題名に使おうとは誰も考えつかなかった。確かに、盛り上がらない対談など読んでいて面白い訳がない。 対談の相手は実に多彩。三浦雅士との少々硬い文学論から、山下洋輔らとの横浜ベイスターズ友の会といった趣の自虐的ファン心理まで、いつものように話題は雅俗に及んでいる。この間口の広さが彼の特色で、小説の方も、手法的には高度でも、市民感覚から離れていないのはご承知の通り。 面白いのは、丸谷が常に話の中心にいるとは限らず、中村勘九郎から舞の芸談を聞き出すなど、でしゃばらないことだ。いよいよ吉行淳之介ばりの座談の名手の域(?)に入ってきたかと感じさせられる。特に、冒頭の大江健三郎、井上ひさしとの新人時代の話は出色で、大江が実にざっくばらん。二十代の若さで芥川賞をもらったため、その後は苦難の連続だったと、愚痴ること愚痴ること。他の職業に就いたことがなく、勤め人を書こうとしても想像がつかなくて困ったとか、ノーベル賞作家という立場を忘れて?本音で愚痴っている。 丸谷も、はや七十二才。先頃、はじめての作家・作品論集「群像日本の作家 丸谷才一」(平9・3 小学館)も出た。批評家・随筆家としては折り紙つきだが、小説は正当な評価を受けているとはいい難い。今年あたり、このガイド片手に、小説家としての仕事を展望、再評価するにはいい機会なのかもしれない。 (「ビジョン」所収)
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