(書評)「花ゆらゆら」 出久根達郎著 筑摩書房 1800円
春紫苑、夾竹桃、吾亦紅福寿草……。
よく聞く花の名である。しかし、若い人ですぐに姿を思い浮かべられる人は少ないのではないだろうか。そもそも学校では習わない。「生物」の時間に習うのはホルモンや遺伝の話である。植物の名や茸の見分け方など、昔は生きるために必要な大事な知識が、現代では趣味の人だけの領域になってしまった。昨今大ブームの「ガーデニング」も、大人になってから、空白知識へ補填作業をしているだけのような気もしてくるのだが……。
この本は、花にちなんだ短いエッセイ五十編の一つ一つに、佐野有子氏筆による花の絵が添えられている。彼女の絵がなかったら、この本の暖かみはずっと減じていただろう。ポインセチアにまつわる老母との愛情こもったやりとりが語られていても、読者に、大きな花びらのような赤い葉の姿がイメージされなければ、思いは浅いものになっていたろう。「そうそう、この花の名がこれだった」と思いながら読んでいく。この本の楽しみ、これに尽きる。
作者の出久根さんは言わずと知れた随筆の名手。私は『漱石を売る』(文芸春秋)以来の愛読者である。時々出来すぎていて作意を感じる時もあるが、何といっても文章に<職人芸>を感じさせる、現代では少なくなったタイプの作家だ。
ところで、最後の頁に、初出は「フリテン君別冊」「まんがライフオリジナル」に連載とあった。何と漫画本である。なんだかさっぱりわからぬ。 「ビジョン」 話題の本気になる本
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