ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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久しぶりの映画館でロードショーを観た。地元が舞台の「武士の家計簿」(松竹)。本は出版された年に読んで、職場の図書館報に紹介記事を書いた覚えがある。実は我が家の菩提寺に主人公猪山家の墓があることを、今秋、住職が教えてくれ、父の墓参りのついでにお参りを済ましたという縁もあって、気になっていた。既に墓は無縁仏となっていて、墓石上部のみ残っており、そこに急ごしらえの拝台が置かれていた。映画のせいで、お参りに訪れる人がいるという。 映画館に行ったのは「ALWAYS 三丁目の夕日」以来五年ぶり。急に思い立って出かけたので、通常料金を覚悟していたのだが、行ってみると、夫婦50歳以上ペア二千円とあり、それを利用した。夫婦で映画を観る限り、何時行っても一人千円で観ることができることを発見して喜んだが、人生でシルバー割引を利用したのは、これが初めてだと気づき、多少の感慨があった。館内はほとんど我々より年上のご夫婦ものばかり。 「家族ゲーム」や「メインテーマ」を若い頃観て以来の森田監督作品。家族ゲームと同様の彼らしい発想やユーモアも多少はあったものの、実にオーソドックスな撮り方で、松竹映画ということもあって小津安二郎を意識しているのではないかと思うようなゆったりとした流れと意図的繰り返しが特色であった。簡単なエピソードを配してうまく家族の一人ひとりの個性を描いていて上手い。 主人公は愚直な勤めぶりが評価されて出世もし、赤字の家計も倹約に努めて借金返済を果たす。刀のかわりに算盤で武士の矜持を全うした立派な生き方をした人物。子に対しては厳しく武家の精神を教え、お家芸をしっかり身につけさせた。当初、反発した子も、後、その「算用」で身を立てることになるという四代にわたる物語である。 劇的な展開がないので地味で、少々物足りない感じを受ける人はいるかもしれないが、人間不変のテーマを扱っていて、誰しも心に沁みるいい映画だったように個人的に思ったのだが、帰宅してWEBに載っている感想を観ると、感想がバラバラなのに驚いた。概ね褒める意見だが、その間に退屈で何をいいたいのか判らないとばっさり切り捨てる意見も見受けられ、私と逆に全員低評価だと思って感想を観たら、褒めている者が多くて驚いたというものもあった。意外に思いながら読み進めると、今度は、「悪評を書く人は、若い独身者ではないか、歳を重ねた人なら、色々な場面で自分の人生と照らし合わせて気持ちが動くはずだ」という分析の書き込みがあったりした。若い人の中には周囲の年寄りが時々どっと笑うのだが、なぜそこが可笑しいのかが判らないというのもあったが、この映画のどこが判らないのかが私にはよく判らなかった。 立派だと思う主人公の生き方についても、柔軟性に欠け、子供に対する厳しさには慈愛のかけらもなく実に厄介な父親だと完全否定する女性の意見もあって驚いた。そこを否定するとこの映画は嫌な映画になる。 こんな判りやすい映画でも、人によって評価はばらばら。そこが人間的で面白いとも言えるが、「人倫」さえばらばらになっているとしたらならば悲しいことだと思わずにはいられなかった。WEBの感想は読まない方が良かったと思うことがしばしばある。 観賞後しばらくして、幸田文の「おふゆさんの鯖」という短随筆の問題を読解した。彼女は小さい頃から腐ったものを捨てたら怒られたという。ただ捨てるのではなく、腐りかけのものを舌などの五感を使って覚え、「正しい味」を知っておけと教えられたそうだ。露伴が女子だからという隔てなく厳しく子を育てたことは有名。露伴の父は幕臣で、文の倫理観はまさにこの映画と同じく下級武家層の発想だとすぐピンと来た。そういう大きなところから文章を読むと読みに間違いがない。だから、一番最初にこの映画の話をして、解説に入った。
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