ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2013年01月25日 :: 「第五十九回伝統産業工藝展金沢展」を観る |
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(去年の秋に行った美術展の感想。書きかけで放置していた文章を今日手直しし、今頃ようやくアップ。)
仕事で休日が潰れる合間、体の空いた時間に入れ込むようにして、上記展覧会を観てきた。最終日ということもあって、県立美術館は大混雑。駐車できるまでかなり待った。こんな時、館内にある洋菓子店の繁盛ぶりは恨めしい。 何十年も前から観に行っている秋の定番展覧会である。昔は休日に行ってもガラガラで、展示室一室に見学者は我々夫婦だけというようなこともあった。派手さがある訳でもなく、あくまで「工藝品」の枠の中での造型。我々も、今日は天気もいいから秋の空気を吸いに行こうといった散策目的のひとつとしてこの展覧会行きがあったようなところがあって、この展覧会と兼六園周辺のぶらぶら散歩がパックになって記憶の底にたまっている。 しかし、最近、伝統工藝への興味関心が大幅に高まってきているような気がする。地場産業振興という側面のほか、金沢市の観光への明確なシフトということもある。九谷焼き・輪島塗などのメジャー工藝以外の、これまでスポットの当たってこなかったマイナーな工藝分野も、この頃は多く地元民の知るところとなり、県民はかつてないほど自県の伝統工藝のことを熟知するようになってきた。美術大学や卯辰山の工房、輪島の漆藝技術技術研修所など、作家育成も功を奏し、地元の町々に若い作家が多く居住するようになって、そうした職業の人が身の回りにいることがそんなに不思議なことではなくなった。二十一世紀美術館の影響を含め、金沢はここ十数年でアートの街に衣替えしつつある。そうした流れがこの日の混雑を作ったのではないだろうか。 しかしながら、先般、輪島塗販売の最大手稲忠漆藝堂が会社再建にも失敗し、解散となったというニュースも聞こえてきた。現実はなかなか厳しいことに変わりはない。 ちょうど行った時間帯に人間国宝の方の解説があって、冒頭部分だけ聞いた。この展覧会は、文化庁の主催、古めかしい言い方でいうなら「官展」で、現在、官展と言えるものはこれだけであるという話だった。なるほど、伝統工藝の振興・伝承は確かに国の文化の受け伝えである。 いつもより熱心に観たので、高価な値がつくだろうこれらの品々を自分が買うとしたらどうなんだろうという観点で見て、ちょっと、以下の注文をつけたくなった。
「使い手にもっと寄り添った複合化した製品を」 まず、箱は何のための箱なのか。漆塗りの意匠のみ目立って、その箱がどう使われるかの配慮があまりない。小物入れなら中に格子状の仕切り板があってもいいのではないかと思うが、それは付属していない。単なる中途半端な大きさの、寸法的に入れるものを想定していないかような箱。もちろん、出品する作品なので実用は二の次なのだろうけれど、これでは飾り物としての用途以外、売れるはずがない。使い手のことをもっと考えてほしい。 次に、九谷焼にガラスの脚をつけたワイングラスがヒットしたが、ああした方向性は正しいと思う。漆なら漆一つの藝だけで自己主張していても展開がない。 使用する側から言えば、筐体全部が漆である必要はない。以前にも例として出したことがあるので、同じ話をもう一度することになるが、万年筆入れなら万年筆を入れる箱として使いやすく美しければいいのであって、木工品として優秀で、一部に使われる漆も美しく、金具は金工として丈夫で且つ洒落た意匠を持ち、一部には例えば竹細工など他の技巧もワンポイント的に入っている。蓋を開けると、中にはベルベット地かなにかで万年筆を保護するしっかりした内装があって、特定の物を入れる入れ物として実用性に富む。この説明ではゴテゴテしている感じだが、そういった各藝がクロスオーバーしていて美しく、それでいて、便利でぴったり感がある実用品は、残念ながら、現在の土壌ではまだまだできないのではないだろうか。作家制作然、漆漆然としていなければならないことはさらさらない。 金沢市街にあるクラフト店をよく冷やかすが、一般の消費者・観光客がこれならとお金を落とすことができる美と実用性を兼ね備えた製品はまだまだ少ないというのが正直なところ。高価でも、これが自分の用途にぴったりだと思うものは、ちゃんと買ってくれるはず。
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