ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
内容は、文学・言葉・読書・ジャズ・金沢・教育・カメラ写真・弓道など。一週間に2回程度の更新ペースですが、休日に書いたものを日を散らしてアップしているので、オン・タイムではありません。以前の日記に行くには、左上の<前月>の文字をクリックして下さい。
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前に紹介したG・ミラバッシ(p)のライブCDのことが出ていないかと、「もっきりや」のHPを観ていて、チャリート(vo)のライブがあることを知った。 そういえば、ライブハウスで生演奏を聴くなんてことは、六年程前、南青山の「ボディ&ソウル」で辛島文雄(p)グループを聴いて以来である。ただ、あそこはジャズクラブで、もっきりやのようなフォークもするライブハウスとはちょっと雰囲気が違う。 地元で聴いたのはいつだったろうと記憶を遡ると、どうやら、一九七七年、山下洋輔(p)とA・ロイディンガー(b)のデュオを「ヨーク片町」で聴いて以来らしい。あそこも厳密にはライブハウスではなくてジャズ喫茶というべきところ。当時、片町大通り沿い、細い階段を上がった二階にあった。小さな店のテーブルをどけて、十数人が入れるスペースを作っての演奏会。 あの時、ピアノの音が狂っていると山下からクレームがあったらしい。客が入ってから、やおら調律師がやってきて、ビーンビーンと作業を始め、我々はその一部始終を見守った。だから、開演は一時間遅れ。それでも誰も文句も言わずじっと待った。今考えると悠長なものである。山下さん、鍵盤肘打ちで、どうせ、またすぐに狂うのに……。 もう三十年前の思い出。 それなら、久しぶりにと、愚妻を連れ出して夜の繁華街に出向く。平日(二十六日)のこの時間帯に柿木畠周辺を歩くのは珍しいが、七時前だというのに、通りは閑散としていて、地方都市中心部の地盤沈下をまざまざと感じる静けさだった。 なにせライブ経験不足である。開場一番乗りで店に入ったものの、誰も後に続かず、私たちだけだったらどうしよう、歌ってくれるかしらと愚妻は要らぬ心配をしていた。それでも、ステージが始まる頃には三十人ほどの客が席を埋め、ちょうどいい密度になった。 席は最前列。まあ、新参者ですから、少し後ろでゆったりと聴くなどというお上品ことはしない。貪欲に聴くという態度満々。 まず、大石学(p)トリオの「枯葉」からスタート。ラジオの生演奏収録番組などで、日本屈指の実力派だと知っていたので、彼らの演奏も楽しみだった。彼のピアノは、正統派スタイルのアドリブの他、曲によって、フリー風のスケールアウト、ハンコック風のファンクリズムとあらゆる奏法を熟知したオールマイティぶりを発揮、ガンガン飛ばす疾走感が素晴らしかった。 「東京ジャズ2005」の圧倒的パフォーマンスで更に脚光を浴び、今年、ビッグバンドとの競演アルバムが話題を集めるなど、赤丸急上昇中のボーカリスト、チャリートの歌は、二十年選手のベテランぶりを感じさせるメリハリの利いた歌いっぷりでパワフルの一言。私の座席の二メートル先で、奥歯の歯並びまで見えるほど大きく口を開けてシャウトする発声に圧倒された。 曲は、「ニカの夢」「バードランドの子守歌」などのジャズ曲も混じるが、「愛するデューク」「素顔のままで」「ソングフォーユー」などポピュラー曲中心で、愚妻も聴いたことある曲ばかりでなじみやすかったとのこと。でも、有名メロディべったりではなく、スティービーワンダーの有名テーマをチャリートがロックビートで歌った後、一転、高速フォービートとなってピアノが火を噴く展開など、変幻自在なリズムチェンジがいかにもライブならでは臨場感を感じさせた。シンバルの鼻先に座っていたので、外人ドラマーが叩く太鼓のパルスが体に直接響き、パワー感、音圧、リズムのノリなど、四人全員で発散する、音楽が持つプリミティブな魔力に酔った一時だった。 かぶりつきでジャズを聴くという、これまでしたことのない経験に、私も愚妻も大満足だったが、帰りの道すがら、愚妻は「行ってよかったわ。ボケ防止には、日頃したことのないことをすると、脳の刺激になっていいという話だもの。」と今宵の行動を総括した。 せっかく最高のライブを聴いて、そんな哀しい理屈、つけんでもよろしい。
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