ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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一月からテレビで観て、三月に最終回をむかえ、下旬から四月上旬にかけて原作となった二冊、原作とはならなかったが最新刊でシリーズ完結編の三冊目も読んだせいで、綾香と芭子の二人の物語が脳裏から離れない。頭の中でずっとテーマ音楽や効果音楽が鳴っていて、心の半分が物語の中にいるような気分ですごした今年上四半期であった。 小説の芭子の性格はドラマと比較的似ていたが、綾香のほうは違っていた。前向きなのは変わらないが、小説では少々脳天気な中年女性の匂いが強い。後半、主張にも揺れがみられる。私はドラマを観てから原作を読んだので、基本のイメージはドラマのほうで、ドラマに使われていない話は、二人のサイドストーリー的な感覚で読んでいった。谷中の人達との関わりは小説のほうが遙かに深く、ドラマは大石夫婦と巡査、或いは勤め先の人々と限られている。芭子の彼氏も、ドラマではパフォーマー、小説では弁護士とまったく別人だし、関係が止まってしまったドラマと成就しそうな小説、恋の結末がまったく違う。 しかし、そうしたもろもろの違いも含めて、芭子と綾香の二人の世界が私の心の中でふくれていったような気がする。ドラマと原作を較べて読むということは、そう珍しくもないのだが、それは、どちらかをメインとして比較検討するというニュアンスだったりする。しかし今回は、違いにあちこち気づきつつも、相乗的に綾香・芭子像が膨れ上がっていくという今までにない心理的経験をしたように思う。 ドラマを観ながら、多くの視聴者は、自分の過去を思い出し、それが時に思い出したくなかったものが、封印を解かれたかのように浮かび上がったりしたのではないだろうか。私も自分の若い頃のあれこれを思い出し、今の感覚で、それをいちいち点検し、ああ、あの時、こうすればよかったとか、相手に申し訳ないことをしたなどと、自分の情けない行状を洗い出しては、自分をちくちく刺し、心が痛かった。 このドラマの根幹、一度切れてしまった「親と子の絆」の再生のモチーフも、忘れかけていた私個人の過去の記憶を引き出して、当時の心情をまざまざと思い出させることとなり、芭子を不憫に思って切なくなっているのか、子供だったあの頃の自分に対して切なくなっているのかわからなくなってしまった。 その上、いい歳の私は、切り捨てられた芭子ばかりでなく、子供と縁を切った母親妙子のほうの心情にも思いが至り、両方の痛みがわかって、切なさが倍増した。 ドラマで芭子は、何度も、自分のようなものは幸せになってはいけないのだと自分に言いきかせている。自分は人を好きになってはいけないのだと。これは、自分を卑下することで心を安定させ、自分を納得させようとしているのだが、その度に私は「それは違うよ、芭子ちゃん。」と言いたくて仕方がなかった。自分で自分をいじめても悲しみしか生まない。過去がばれて落ち込んでいる彼女に大石老人が言う、「あんまり下ばかり向くな。地面なんか見たって面白くもなかろう。上を向いて深呼吸のひとつもすれば、まあ、なんとかなると思え。」(第八話)
という言葉は、実に判りやすい彼女への励ましであった。
「人は誰でも心の中に孤独を抱えて生きている。その闇に飲み込まれ、一筋の光さえ見出せない日もあるかもしれない。けれど、寄り添ってくれる人が一人でもいる限り、きっといつの日か私たちは見つけられる。それぞれの陽のあたる場所を。」
このドラマは最後(エピローグ)にそう言って閉じられる。 人は様々な過去を背負って生きている。しかし、そんな辛い気持ちも、だれか一人、理解し支えてくれる人がいれば乗り越えられる。それは綾香のような同性の友人であっても、岩瀬君のような異性であっても、妙子のような親であっても構わない、それが家族だと台本作家は言っているようである。(つづく)
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