ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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話は後先になったが、園遊会を観に行った前日、現存する源氏物語絵巻十九図を当時のままの色彩に復元した模写絵の展覧会(主催NHK金沢放送局他)を観に行った。所謂、デパートの客寄せ催事である。 この復元プロジェクトは、NHKがシリーズ番組化しており、私も幾つかは観た覚えがある。そうした宣伝宜しきを得て、ごった返していた。 完成した模写が退色激しい現状の絵図(写真複製)と並べて展示してあるので、比較する楽しみがある。特に群青色だったところがシルバーに退色して、色味の印象を大きく変えていることがわかる。 模写絵は、墨の線描に赤青緑の原色が眼に飛び込んできて派手派手しい印象。やはり、新しいというだけで浅薄に見えてしまう宿命があって、原図の古びて褐色に変じた色合いも、経年の深みのようなものが感じられて好ましい。 しかし、「蓬生」のように、傷みが激しく、構図の真ん中に何が描かれていたのかよくわからないくらいになっているものは、緑青色に草々が描き込まれることで、初めてその全貌がわかり、復元の意義をはっきり感ずる。 帖の順番に並んでいるので、物語後半、世代交代後ばかりで、「須磨」「明石」以前が残っていないことを改めて知る。光源氏の華麗な女遍歴に名を残す姫君たちはどのように描かれていたのだろうか。ちょっと想像するだけで楽しい。例えば、夕顔との一夜、どう描いてあったのだろう? 私は、四半世紀前に、上野毛の五島美術館で本物を観ている。確か、あの時も大変な混雑で、頭の間に私の頭をねじ入れて観た覚えがあるので、改めてこの作品の人気ぶりを感じる。 客の様子を窺うと、描かれている登場人物たちがどんな関係なのか、大書された人物関係図で確認している人が多い。勉強熱心だなと最初は感心していたのだが、途中から、ちょっと、あれれと思い直した。 例えば、親が子供に熱心に解説しているのはいいのだけれど、絵横の解説に書いてある「牛車(ぎっしゃ)」(御所車のこと)を「ぎゅうしゃ」といったり、「簀(す)の子」(寝殿造りの縁側のこと)が読めなかったり、「五島(ごとう)美術館」を「ごしま」と読んだり、端から聞いていると、間違い知識があちこで飛び交っている。これには、ちょっと困った。いかにも教養ありげな老婦人まで平然と「ぎゅうしゃ」と言っている……。そのたびに、私は田圃で牛を荷車に繋いで働かしている農村風景が目に浮かぶ。 ちょっと、古典教育の怠慢である。もっと国語の先生に頑張ってもらわないと困る。(と力んだところで、天に唾しているだけだが……) ところで、私はと言えば、「閼伽棚(あかだな)」が描かれているのを見つけて、ちょっと嬉しかった。教科書に出てきて、縁の外に立っている仏具などを置く棚のことだと教えはするのだが、絵の中で、女房がその前で何か用をしようとしている場面があり、それで、生活の中で、よく使われている様子が実感的に理解できた。こっちの心のもちようだが、以後、自信を持って生徒に話すことが出来る。 ただ、あれが、なぜ、あんな外みたいなところに設置されているのかは、未だにちょっと理解出来ていない……。なぜだろう。 もうひとつ、我々の商売道具「国語便覧」に小さく写真が出ていた、四季を模した源氏の大邸宅、六条院の復元模型(中部大学池研究室)が出展されていたのも儲けものだった。田型で、北(冬)の町(明石の上)だけ曲水のない破格の造りになっていることを発見し、興味深かった。
一人でこのデパートにきたのは何年ぶりだろう。高級服飾には興味がなく、「デパ地下」ならと下りたが、惣菜を選ぶ気力が湧かなかった。立ちっぱなしで辛くなり、無駄な労力使うより早く帰ろうという気ばかりが先に立つ。昔なら、なにか美味しいものを買って帰ろうと楽しくうろついていたから、やっぱり、まだまだである。 翌日は元気にうごいたのだから、一人がいけなかったのかもしれない。
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