ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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上記展覧会「第一期 白い馬の見える風景」展を、長野県信濃美術館附設東山魁夷館にて鑑賞。 一九七〇年代に彼の大ブームがあって、ある程度の年齢の人は、大抵、代表作を全部知っていると断言してもよいほど国民に親しまれた日本画家である。 一九七六年、集英社の「現代日本の美術」(普及版)の第一回配本が彼だった。発刊記念特価で、この巻だけ大安売りだったので、高校生の私も買って何度も眺めた覚えがある。この画集は今も手元にある。当時、出版社は魁夷を大宣伝していて、本屋さんが文庫本にかけてくれる紙カバーも代表作「緑響く」だった。彼が唐招提寺の襖絵を手がけている頃の話である。 確か、後、実際に代表作を網羅した展覧会にも行って、肉眼で作品を目にしているし、以後行った日展などの美術展にも彼の作品があったりして、これまで本当にたくさんの作品を観ている。 この美術館の所蔵は、主に後半生のもので、習作・スケッチも含まれているので、本制作と習作を並べて比較展示できるようになっているのが特色。本制作の前に実に律儀に習作が制作されているので、スケッチ、習作、本制作と、ひとつひとつ順を踏んで描くのが彼のスタイルなのだということが判る。習作の段階でほとんど完成していて、本制作は、号数が大きくなるのと、微調整といったくらいの違いでしかない。 あの頃、例の白い馬が印象的で素敵に思えたが、久しぶりに観ると、少し、「俗」を感じて、煩わしく思ったのは意外だった。 最後の部屋に飾られていたエプソン社のスキャニングによる複製画は実に精巧に出来ていて、本物と見まごうばかりで驚いた。 東山から日本画を見はじめたので、若い頃は、あの淡い色調すべてが彼の個性かと思っていた。しかし、その後、他の多くの日本画を観るに及び、日本画の顔料の特色なのだということを知った。まったく無知であった。でも、そういう入り方をした人は多いはずである。それほど彼の絵は日本画のスタンダードになっている。 だから、今回、久しぶりに観て、馴染みに再会した懐かしさはあったが、新たな感動がないまま館を出たというのが正直なところ。これはいわば「日本国民の好みの最大公約数を集約してみせた画家」(桑原住雄)となった王者が引き受けなければならない評価と言え、作品はそうした冷たさに耐えなければならない。が、かくかく言わずとも、とっくに作品はそれを判っていて、どっしりと耐え切っていくことだろう。 若年より高い能力を認められ、白い馬のシリーズで全国的な人気を得、古寺の襖絵など最高の舞台で活躍した、人気と名声を持続した希有な日本の画家。苦節何十年という苦労を味わう芸術家が多い中、本当に幸福な大秀才であったと感じる。
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