ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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今夜「小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ スクリーンコンサート」を、金沢市文化ホールで観た。「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」のコンサートを、長野朝日放送主催で、金沢他四会場に生中継するもの。 最初に「サイトウ・キネン・フェスティバルの歩み」とて、これまでの歴史を概観し、小沢指揮のオペラなどの抜粋が少々。計約30分。 その後、長野県松本文化会館に切り替わり、生中継によるコンサートがそのまま放映された。指揮:ディエゴ・マテウス。若手のイケメンである。曲は、チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」、 バルトーク:「ピアノ協奏曲第3番 ホ長調 Sz.119」、 チャイコフスキー:「交響曲第4番 へ長調 作品36」。アンコールなし。 音は5.1chサラウンドで、中央スピーカー、後方両サイド・スピーカーが配された本格的なもの。会場のざわつきも後ろから聞こえる。このシステムで大会場で音楽を聴くのは初めての体験。音はプレゼンスがよく、音場もほぼ正確で、CD並。マイクセッティングなど音響裏方の努力を感じる。ただ、原音忠実かというと、やはり少し違う。ピアニッシモの弦のトレモロは本来ならもっと模糊とした音で聴衆に届くものだが、しっかりマイクが拾って、分離も明確、音圧も高く、弱音の情緒的な部分はスポイルされていた。逆に全強奏の部分は、音量的には、生音並なのだろうけれど、マイク集音集成的で音が割れないレベルに調整されているからだろうか、感覚的にはもっと音の塊感があってもよかった。ピアノ協奏曲のピアノ(ソリストは、懐かしいお爺ちゃんルドルフ・ゼルキンの息、ピーター)は若干残響過多で映像より右寄りに定位していた。 スクリーンは思ったより大きくはなかったが、それより、頻繁にライブだとか、フェスティバルのロゴだとかが画面隅に入るのが煩わしかった。せっかく現地と離れていても一体感をもって観ようとしているのに、あれが入る度に、これは、映像で、このスクリーンの奥は、ステージではなくて何もない薄っぺらな一枚の白い布だよと常に思い知らされている気分を味わい、げんなりした。 映像は、ソロの場面はしっかりソロ奏者のアップがフォローされるDVD並の配慮の行き届いたもの。感心したが、指揮者に対面してステージ側から聴衆側を撮した映像が時々入って、それを我々観客が大画面で観ているので、ふたつの会場連結したかのような違和感を感じたり、常にカメラ視点が動くので煩わしく思った聴衆も少なからずいたようだ。正面固定画面のままでもよかったのにといった感想を述べた知人がいた。おそらく、いらぬことをして欲しくないという気持ち。もうひとつ困ったのは拍手。しても向こうの人は喜ばないし……。 私は途中から目をつぶって、音に集中した。前述のようにあくまでもマイクで拾って、それをアンプリファイアしたものだから、結局、これは、昔懐かしいレコードコンサートと同じだということに気づいた。家で大音量で音楽が聞けなかった当時、時々、いいオーディオを使ってレコードを流すだけのコンサートがあったものだ。ジャズ喫茶だって考えてみれば同じ。 演奏は、まったく隙のない、臨時編成とは思えない統制のとれたもの。均整のとれた演奏の中に、若々しさを表現しようとした指揮者。緻密な音づくりと感じた人も多いだろう。実際そうなのだろうが、おそらく録音エンジニアによる音づくりも影響しているはずである。 機械好きとしては、こんないい音が、松本から生で地方都市の一ホールに中継されるシステムがどうなっているのかに興味が湧いた。長野朝日放送からテレビ朝日本社経由で各放送局に配信されているのか、松本からダイレクトなのか、北陸朝日放送の屋舎を経由しているのか、中継車がパラボラあげてダイレクトに受信しているのか。いずれにせよ、減衰なく綺麗な音で届くデジタル時代の「今」らしいイベントだった。 ただ、ひとつ文句がある。小沢指揮とパンフに大書しているのに、出てきたのはVTR部分だけ。インタビューなどを差し引いて、純粋に指揮をとるのは、ほんの十五分ほど。メインの生中継には一切絡まない。客寄せを期待したかなり過大タイトルである。ちょっとだまされた感あり。
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