ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
内容は、文学・言葉・読書・ジャズ・金沢・教育・カメラ写真・弓道など。一週間に2回程度の更新ペースですが、休日に書いたものを日を散らしてアップしているので、オン・タイムではありません。以前の日記に行くには、左上の<前月>の文字をクリックして下さい。
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読む。といっても、もうかなりの部分、ブログ「がんばれ、生協の白石さん!」(管理人上條景介)他の紹介サイトで読んで知っている。話題の本なので、生徒がひっきりなしに借りているその合間、棚に戻っているのを見つけ、さっと借りて一晩で目を通した。本になってどう印象が違うかのほうに私としては興味があった。 周知のように、生協に寄せられた意見カードの回答が面白いということで、学生さんがネットで紹介して広まったもの。ずっと前から白石さんが東京農工大で働いているのか思っていたが、この本によると、早稲田大生協からの異動で働きだしたのは二〇〇五年になってからのことらしい。回答業務を担当し始め、それが話題になり、本になるまで一年とかかっていない(本は十一月の刊)。 出る前から、作者名をどうするか、ネット上で話題になっていた。本人の意志と関係なく、自分の仕事の上で書いた文章がネットに載ってしまっていたわけだし、質問したのは不特定な学生さんなので、色々なやり方が考えられる。結局、白石さんの本名を明記し、「学生さん」という漠然とした言い方をして両名併記という形になった。 今回の場合、『電車男』よりは特定できるが、今後も、こうしたネットネタの出版の場合、著作権をどうするかなど、問題は多そうである。例えば、今回の場合、下世話な話ながら、「学生のみなさん」の方の著作権料はどこに支払われるのだろう? 奥付に、「編集担当」として、講談社デジタルコンテンツ出版部「MouRa」、「編集協力」としてブログの作成者、「協力」として、東京農工大、農工大生協の名が見える。著者と編集者のやりとりというインティメイトな関係で成立していたこれまでの世界とは違う係わりの多さである。講談社は、ネットネタの出版が商売になると踏んで、発足して間もないネット配信を担当する新興部門を、即、これに絡めたようである。おそらく、ややこしくなるデジタル・パブリッシメント関係のノウハウは、今後、この部門が蓄積していくことになるのだろう。 もちろん、この本の本筋は、直接商品に関係のない悩み相談やおふざけ依頼にも、誠実かつウイットに富んで答えているところだが、途中、本人の解説がところどころに入っているところが重要。話題になって驚いた様子や、商売に関係のない質問への折り合いの付け方などの裏話が聞ける。そこがブログとの大きな違いである。 生協の上司やネットで広めた学生の文章も載っていて、白石さんの解説を含め、全体として、生協活動のPR、大根踊りで有名な私学の東京農大と混同される知名度の低さを払拭すべく、農工大の宣伝も入っていて、その大きな額縁の中で、掲示板のやりとりを載せているというパッケージングに仕立ててある。この本には、こうした健全な広報色があるので、大学側が今回のことを喜んで白石さんを表彰したというのも頷ける。こうしたまとめ方は、デジタルコンテンツ出版部が、出版に際してコンセプトをどうするか綿密に会議でもして決めたのだろうなと思わせるところである。 その額縁の部分が、多くの人が既に読み知っていても本を手にとらせる付加価値の部分になる。去年から急に興隆してきたネットネタ出版の初期の形としてはよく考えられたパッケージングだと思うが、ネットネタが、ずっとこういう経過報告付きの形で世に出されるというわけにもいくまい。今後、どう展開していくのだろうか。出版業界人的な興味ひとしおである。 さて、話は最後にぐっと卑近になる。 そろそろ年度末。年に一回発行の図書館報の編集が図書委員の生徒さんの手で進んでいる。原稿段階でざっと目を通したところ、この本を真似て、「○△高校の○○さん」という特集を組んでいた。図書室への希望カードに書かれた意見投書に答える形式にして、白石さん風の言い回しで、「そんな貴方にはこの本がいいでしょう。」と図書室所蔵の本を紹介している。 巧いなあ。こんなのは公務員のオジサンは逆立ちしても出てこない。
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