ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2006年02月22日 :: 『Alternative Paradise〜もうひとつの楽園』展を観る |
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先の日曜日、金沢二十一世紀美術館に行き、上記の美術展を鑑賞した。早いもので、秋に美術館巡りの日々を送ってから四か月たつ。 ジャズLPをCD化する時、別テイクを追加することが多いが、それを「Alternative(オルタネィティブ)take」という。なので、今回のタイトルは、英語が全然の私でも意味がわかった。 今回の展覧会、「「工芸」の現代的価値を問いかける」というコンセプトで、布、プラスティック、髪の毛など日常的な素材を使って、手間をかけて造り上げる手藝・工藝の手法を基にした作品というのがゆるい共通点。布に一部刺繍して抽象画に仕立てたもの、手芸用品の寄せ植え的なスカート、細分化した布片を縫い合わせて巨大なパッチワークにしたものなど、膨大な創作時間がかかっているものが目につく。 しかし、それにしては、素材がすぐに色褪せる化繊だったり、安手のプラスチックだったり、長く保ちそうにもないものばかりで構成されている。本来的に、例えば、漆塗りなどの伝統工藝が持っている永遠性への希求を、これらの現代美術は拒否しているかのように見える。本来、時間をかけて制作するということは、その営為自体に永遠性への祈りが込められていると思っていたこちらとしては、そこが、逆に新鮮でもあったが、現代の美とは、徒労そのものをテーマにしている、あるいは、退廃的な虚無の美を演出しているにすぎないのではないかという危惧も心の中を駆け抜けた。しかし、そうした心配は旧弊な見方でしかないのだろう。現代アーティストたちは、そんな心配などさらさらしていないように見える。それこそ、食事をしたら用を足すように、作品を排出しながら前に前に駆けている。おそらく彼らにとって「クリエティビティー」とは「瞬間」の謂いなのである。労力はそれを固定化するための作業なのだ。 展示の中では、「TーRoom」なる白を基調とした無機的なお茶室空間の演出が電飾なども使って動きがあり、多くの人の興味を引いていた。確かに、この展覧会中の白眉だった。 地下では、二つの小展をしていた。 「河野安志写真展 きのう見た夢」ー実はこの写真展が最終日だったので、慌てて行ったのである。 写真をコラージュし、それを白黒で複写し、直接、彩色した作品三十点ほど。すべてアナログの手作業で行われた手間のかかる手法だが、そのため、普通の写真展とは一線を画する現代アートになっていて、この美術館で展覧会をするのに相応しい。シュールレアリズムとマッドアマノの交錯した世界とでも言えば、わかっていただけるだろうか。 作者は、金沢でカメラマンとして活躍中だったが、食道癌のため、二〇〇四年四十二歳で他界した人。受付は親族が担当していたようだった。 隣の部屋では、「永澤陽一展 METAMORPHOSIS 変貌系」(金沢美術工芸大学教員作品展)というのをやっていた。昨年、金沢美大の専任教授(ファッションデザインコース)に就任した氏のファッションデザイン展である。余禄として鑑賞。 数百体にのぼるマネキンが群像的に置かれ、すべて違う衣装を身にまとっている。客は、その狭いマネキン間をすり抜けながら鑑賞する仕掛け。ファッションデザイナーの元衣装を、これほど間近に観たことはなかったので、まじまじと眺めたが、規格ものではないので、部分的には結構いい加減な縫製も目立った。また、中には、こんな大胆な露出では着る人はいないだろうというようなものも混じる。この中から、メーカーに気に入られた一部デザインが製品として量産化されるのかねと愚妻に問うと、いや違う、これはモーターショーのコンセプトカーみたいなもの。イメージを振りまいているだけで、世に出てくる新車とは別物と思った方がいいという答えが返ってきた。なるほど、よく判る喩えだ。 ホックをスパンコールのように並べたり、着心地悪そうなビニール素材を大胆に使ったりしているところなど、私のような門外漢には新鮮で見飽きなかったが、それにしても、女性の服は、ボディを見せたり隠したり、上下、変なところで切りかえたり……。体がでこぼこしているからどんなことしてもサマになる。 それに引きかえ、男の服のほうは、ジャケットとパンツで、情けなくなるほど普通、規格的だった。自分が着る服として全然面白くない。下手なのか、力が入っていないのか。はたまた、ファッション業界自体が男を無視しているのか。並んだ雌雄のマネキンの落差に、ちょっと困った。 最近、冬の中休みで、春めいた日が混じるようになった。この日もそんな一日だった。上はモコモコのファー、下はミニスカートでドスンと生足出しの、寒いのか暑いのか分からない格好の娘たちが押し寄せていたが、この子のファッションは今一歩だとか、この子はセンス抜群だが、ご面相は……とか、思わずチェックを入れてしまったのは、明らかにこの展覧会のせいである(笑)。
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