ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
内容は、文学・言葉・読書・ジャズ・金沢・教育・カメラ写真・弓道など。一週間に2回程度の更新ペースですが、休日に書いたものを日を散らしてアップしているので、オン・タイムではありません。以前の日記に行くには、左上の<前月>の文字をクリックして下さい。
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入院中読んだ月刊誌「文芸春秋」で、阿川弘之の随筆が長期連載されていることを知る。既に二冊単行本化しているようなので、新しい方を取り寄せて、総体引率中の試合の合間に少しずつ読んでいった。 掲載誌柄であろう、これまで読んできた滋味溢れるエッセイとは、多少、性格が違い、時事問題にも積極的に発言している。怒っている時は思いっきり怒っているような書き方がしてある。政治や時事に対するものは、その時々には、読者の興味をひくが、何年も経つと、どんな社会的事象を踏まえているのかさえ、分明でなくなる場合がある。また、経過中の事件などについてのコメントも、最終的な結論が、何年も後に読む我々には見えているので、古びて見える。 志賀直哉に文章の極意を習った彼は、勿論、そうしたことは重々承知の上で、『七十の手習い』(講談社)『春風落月』(講談社)のような佳品とは、話題や書き方を変えているのである。古びてもよいという覚悟の文章として書いている。政治家への批判も多く、実際に政治家当人から反論の手紙さえもらっている。 彼の立場は、「反共親台」である。彼ら世代が習った教育からも、戦中・戦後の中国・アジア情勢を同時代として生きてきた事実からも、彼の政治的立場はよく分かる。先だって読んだ江藤より一世代上の人だが、母国の荒廃を経験し「国単位」でものを考え、憂いている共通点を強く感じる。 思想上の違いは、人間関係をはっきりと弁別する。修復や歩み寄りの余地のない絶対的な関係である。それと同様、阿川のこうした政治的発言ばかりを取り上げれば、頑迷な保守派として読むに足りぬと思う御仁も多数出てくるだろうことも、よく分かる。 しかも、この作者、そうしたマイナス面を百も承知で書いているのである。 こちらとしては、共感する部分もあれば、ずっと下の戦後世代として、違和感が残る部分もある。彼の心情をよく知るが故に、はらはらして、これ以上、刺激的なことは書かない方がいいのではと心配する心情も湧いてくるくらいだ。 しかし、一面、彼の英国紳士を範にするダンディズムは、「なんでもあり」の現代には貴重だ。思想・心情的には同じ方向性でも、文化・生活面に発揮されたものは、痛快に読むことができる。 だから、読んでいて面白かったのは、クイーンエリザベスU世号に接触された自衛艦の艦長が、謝りに来た上級航海士に「女王陛下にキスされて光栄であります。」と答え、小さいながら世界ニュースになったことを紹介しているような回である。現海上自衛隊も、旧海軍の伝統を引き継いで、英国風のユーモアを解していると、いたくご満悦な海軍大好き老作家の笑顔が彷彿とされるのである。
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