ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
内容は、文学・言葉・読書・ジャズ・金沢・教育・カメラ写真・弓道など。一週間に2回程度の更新ペースですが、休日に書いたものを日を散らしてアップしているので、オン・タイムではありません。以前の日記に行くには、左上の<前月>の文字をクリックして下さい。
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先日、金沢二十一世紀美術館に「川崎和男展 いのち・きもち・かたち」を観に出かけた。 中に入ると、休日ということでごったがえしていて、ざわついた雰囲気が館全体を覆っていた。団体客がどっと入ってくる一方、オシャレ雑誌から抜け出てきたような女性が、年代物の銀塩一眼レフでシャッターを切っている。ケータイ写真はもうあちこちで。ケータイで喋っている人も多く見かけた。この時点で、落ち着いて美術を鑑賞するという雰囲気ではないと感じた。 有名な騙しプールでは、下から子供が仕掛けの透明アクリル板を叩くの叱る監視員の声が響いていた。愚妻は、巨大な縫いぐるみが展示してある部屋に掛かっていた着ぐるみを何気なく触って、係員に注意されていた。子供は着てもよいと新聞に紹介されていたから、お触り禁止の理由がよく判らないと彼女は釈然としない様子だった。 有料ゾーンに入場しても、監視員が触らないようにと注意する様子があちこちで見られ、私が見学している間に計五回もそうした光景を目にした。子供連れ客が部屋に入ってくると、監視員がマークして、子供がそういう素振りをするのを待ち構えて注意している様子は、正直、見よいものではなかった。 なぜ、こうなったか。おそらく事態はこういうことだろう。 参加型美術館を標榜した結果、この美術館には子供の入場者が多い。その点で、既に作品破損の危険性が高い。子供はここでは触れてもいい思っているか、思っていないまでも意識は低い。実際、子供が通路を遊び場よろしく走り回っていた。 展示の仕方にも問題があった。ひとつの小部屋でも、触らずに鑑賞するものと、触ってもいいものが混在していた。小さく、触れてはいけないと案内マークはあるのだが、逆に、これは大いに触れてもいいという指示はない。椅子の作品など、みんなが座っているから座っていいようだと判ったが、人がいなかったら見るだけで通りすぎていただろう。 今回の作品が「工業デザイン」なのも拍車をかけていた。そこに飾られているのは、時計やノートパソコンなど日常に使う、いわば「製品」である。触る罪悪感はどうしても希薄になる。 おそらくこうした事態に、美術館側は窮余の策として、せっせと注意しはじめたのだろう。そういえば、以前、「金沢」検索で行き着いたあるブログに、注意されて不快だったと書いてあったことを思い出した。故意ならともかく、不分明なままで怒られては立腹もするだろう。これでは、徐々にこの館の評判が低下するのではないだろうか。 写真撮影についても、今回、監視員に尋ねたところ、無料ゾーンについては差し支えないとのこと。有料ゾーンはもちろん不可なので、これでは、同じ建物内で差があることになり、これも続き意識でシャッター押してしまう人が出てきても不思議ではない。 それにしても大変な混雑である。せっかくの体験型、無料ゾーンの創設といった啓蒙の努力が、こうした予想を上回る入れ込みによって、観光施設化という横ずれを起こしているのではないかと気になった。これでは、「現代美術=アミューズメント」として着地してしまう危険性がある。鑑賞者拡大のあれやこれやの配慮が、開館一年を経て、徐々に裏目の方向に向かっているのではないかと憂慮を感じたのだが、杞憂だろうか。 半年展示の「コレクション展U」も、瞠目するような作品はなく、肝心の現代美術自体がこの俗化に耐えられるのか不安に思った。(つづく)
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