ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2005年06月29日 :: S女史の思い出 |
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女の子は、大抵、男に比べると、皆と仲良くなるのがうまいものだが、その中で、そうした集団から離れて、ぽつねんと立っているタイプの子が、一人くらいはいるものだ。亡くなったS女史の第一印象は、まさにそんな感じだった。大学入学当初、学校主催の親睦を兼ねた横浜文学散歩があったのだが、その記念写真には、一番端に、ぽつんと立っている彼女の姿があったように記憶している。 名列順の便宜的なクラスわけであったが、同じクラスということで、教室でよく一緒になった。T君は、机の前後を挟んで、授業前の小暇、三人で駄弁っていた光景をはっきり覚えているという。その時は、漢和辞典の話をしていたそうである。一週間ほど前に彼から来たメールに書かれてあった思い出話である。 人間、何でもないありふれた日常のワンシーンを、何故かはっきりおぼえていることがある。特にトピック的な光景でもない。何故覚えているか、その意味とて判然としない、そんな光景である。当然、他の人ははっきりと覚えていない。でも、言われてみると、確かにそうしていたはずだから、そうだったのだろう、彼が覚えているのだから、間違いないことだというレベルで同意することになる。 私の場合、彼女の卒論のテーマだった武田泰淳の墓が、当時の私の下宿の近くにあったので、一緒に探索したことを、今でもはっきり覚えている。 去年、彼女とメールでやり取りした中で、そのことを懐かしげに書いたら、そんなことあったっけ?と言われてしまった。彼女はその後数回行っているようだが、私は一回だけのこと。印象の度合いが全然違っていたようである。それに、墓参自体が大事なのであって、同行者が誰だったかは、まあ、副次的なこと。忘れていて当然である。
彼女は、ちょっと普通の人と違っていた。世の中の常識と思えることをさっぱり知らない反面、例えば、ペンギンの話題になった途端、皇帝ペンギンがどうの、マゼランペンギンがどうのと蘊蓄を語り出して、文学の話なら兎も角、なんでそんなことに詳しいのか、周りが訝ると、え、皆知らないの?と不思議そうな顔をして、友人たちを唖然とさせた。だから、そんな彼女を突っついて遊ぶのが、みんな大好きだったのである。 スカートを穿いた姿を、我々は見たことがなく、いつも黒ずくめのズボン姿だったので、男連中の恰好のターゲットになった。「なぜ、穿かないんだ。」「自分を型にはめてはいけない。」「自己改革すべきだ。」などと言いたい放題。そんな彼女が、ある時、何か公式の場で、フォーマルなウエアながら、スカートを穿いてきて、みんな拍手喝采、なんてこともあった。
下世話な世界からは遠い人だったので、七年前ほど前、最後に東京で会った時、車をゴルフに替えたという話を嬉しそうにして、その乗り味や、家での食事の話が話題の中心だったことに、ちょっと昔と違うものを感じた。昔なら、文学の話だけで盛り上がっていたのにねえ、お互い「生活人」になっちゃったねと苦笑したものである。こっちは、元々俗人なので、そんなものなのだが、彼女は、途中、母親を亡くし、おさんどんに心砕かなくてはならなくなってから、かなり経っていたので、「生活」面のウエイトが否応なく重くなっている現実を感じて、そんな彼女に、頑張っているなと安堵もし、少し寂しくもあった。
3月下旬、私の退院報告の返信が彼女から来た最後のメールになった。手術したけど、痛いのが治らないという私の愚痴メールに、焦らずじっくり治しましょうという慰めの言葉。それに、車を今度もゴルフの新型に替えたよという嬉しそうな報告だった。合掌。
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この日記には教育についてのコメントが出てきます。時に辛口のことも多いのですが、これは、あくまでも個人的な感想であり、よりよい教育への提言でもあります。守秘義務や中傷にならないよう配慮しているつもりです。 もし、問題になりそうな部分がありましたら、メールにてお知らせください。
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