ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2005年06月30日 :: 日本語教育としての唱歌・童謡 横田憲一郎『教科書から消えた唱歌・童謡』(産経新聞社)を読む。 |
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「枕草子」の、もの尽くしの章段「ありがたきもの」(第七十一段)には、滅多にないものとして、「毛のよく抜くるしろがねの毛抜き」が、三番目に挙げられている。「舅に褒めらるる婿、また、姑に思はるる嫁の君」に続くのだから、毛抜きの性能は、彼女たちにとって重要関心事だったことがわかる。「しろがね」とは、「銀」のこと。注釈には、「銀製のものは見栄えはするが、鉄製のものと比べ材質が柔らかいので、毛を挟みにくい。」とある。おそらく眉毛などの脱毛処理に大活躍だったのだろう。女性のお化粧の必需品といったところだ。「徒然草」が「枕草子」を強烈に意識しながらも、超えられない鋭い「女の感覚」の部分が、こういうところにパッと出てきて面白い。 教えている側としては、そんな比較論的な部分にこそ、妙味があると思うのだが、生徒は、それ以前に、この「しろがね」の意味が分からない。「注釈」で、銀のことと知るのだが、言葉自体は知らないらしい。ほら、「山はシロガネ、朝日を浴びて、滑るスキーの〜」という歌があるでしょ。と、遠慮がちに歌う。でも、そもそも、そんな歌自体知らないというのである。妙味に行きつく前に、先生の音痴な歌のほうが笑いの対象になる。(歌わなきゃよかった。)
最近の小・中学校の「音楽」教科書は、新しい歌ばかりで、日本人なら、知っていて当然と思うような歌が、大幅に減っていることは、こうしたやり取りを毎年繰り返しているので、実感として知っていた。どうも、唱歌や童謡の歌詞に出てくる言葉から意味やニュアンスを汲み取るといった作業はもう出来なくなりつつある。 例えば、私は、子供の時、「夏は来ぬ」(作詞 佐々木信綱)で、「初夏=卯の花=時鳥」の取り合わせを覚えた。花札みたいなもんだ、鹿にモミジ、鶴に松、と同じと思えばいいんだといったスタンスである。「ぬ」も打ち消しばかりでなく、「〜た」と訳せばいい「ぬ」(完了の助動詞)もあることも、子供心に自然に覚えた。これは、ある種の事前教育といえるが、曲がついているから、メロディーとともにあるから、自然に体で覚えるのである。確かに、紙に書いてあるだけだったら、子供に文語は無理という結論も理解できなくはない。それを、歌の歌詞まで根こそぎ根絶やしにしていしまうなんて、まるで文語が諸悪の根元のような扱いである。 つまり、これは、かつて音楽教育の大事な要素のひとつであった、日本語・文化教育が欠落しているということである。今回読んだこの本にも、これは、はっきり指摘されていた。 小学校低学年では、擬音語を使った歌詞が多い。「詞」というより「言葉遊び」的で、日本語になっていないものも多く見受けられたという。高学年では、世界の歌という扱いで、韓国語・中国語・英語の歌詞が載っているが、それは片仮名表記だという。中国語を片仮名で書いてあっても、四声が無視されているから、字面をそのまま発音しても意味をなさない。教員に中国語の素養があってはじめて指導できる種類のものである。 また、選曲が子供に迎合したようなものが多く、子供の時はいいが、大人になってからも歌える歌が少ないともあった。日本人として、共通な文化の土台として「歌」を継承していこうという発想がないというのだ。宮崎駿監督映画の曲が大人気で、多くの教科書で採用されているそうだが、確かに大人になって「歩こ、歩こ、私は元気。」(となりのトトロ「散歩」)もないものである。(ただし、老人のリハビリには良いかも……。)(つづく)
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