ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2006年11月05日 :: 泉鏡花原作の古い映画「歌行燈」を観る |
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「三文豪映画上映会」の第二回、泉鏡花原作の「歌行燈」を観た。十月二十八日、会場は前回と同じく金沢市立泉野図書館オアシスホール。解説は泉鏡花記念館館長青山克彌先生。 もう二十年以上も昔、香林坊に北国講堂があった頃、昭和十八年作、山田五十鈴主演の白黒映画(東宝 久保田万太郎脚色、成瀬巳喜男監督)を観たことがある。 ほとんど忘れかけていたが、今回の昭和三十五年カラー作品(大映 衣笠貞之助脚色監督)を観て、いくつかのシーンを思い出した。特に、破門された喜多八が、自分が殺したも同然の田舎謡曲師宗山の亡霊におびえるシーンは出色で、多重露出によるオーバーラップ手法が使われていたはずである。あの時、観客から、気持ち悪さに思わず声があがったのを覚えている。 それに、なんといっても、ヒロインお袖役の山田五十鈴が、若く清楚な色香が漂い、大変、魅力的だった。私の世代では、山田は上品な年嵩の女優といった印象しかなかったので、その頃は、うら若きスターだったのだという当たり前のことを知って、妙に感心した。 今回観た衣笠作品、明らかにその前作を意識し研究している。喜多八(市川雷蔵)が、お袖(山本富士子)に能を伝授する印象的な場面を、この映画でもシルエットを多用して幻想的に映像化して力が入っているし、喜多八を破門にした家元の座敷に出たお袖が、藝はお能しかできないと申告して、鼓師に「やれやれ。」といった顔をされるシーンなどは前作そっくりであった。音響効果も前作をなぞっているところがあるように感じられた。 映像は、発端の伊勢山田から伊勢路を転々とする展開ながら、そのほとんどをセットで撮っている。しかし、それが実に細部まで良くできていて、日本映画の絶頂期らしい贅沢な作りとなっている。 ストーリーは、鏡花原作にはない喜多八とお袖との恋愛が根幹に据えられている。これは娯楽映画として順当なところ。市川、山本という二大スターが共演していて、何もないほうが肩透かしを喰う。青山館長は、「芸道ものが恋愛ものになっている。評価は人それぞれ。」と説明していたので、もっと甘い好いたはれたの話になっているのかと思って観ていたが、藝道至上主義的な部分もうまく描いてあり、バランスはとれているように思った。シーン展開も破綻のない手堅いもの。雰囲気だけのトレンディドラマ大流行の昨今、昔はお金を出してこんなしっかりしたドラマを観ていたんだと古き良き時代に思いをはせたことだった。 感想は以上。 最後に、参考までにということで、映画の粗筋を載せる。 「盲目の宗山は、伊勢山田では名を知られた謡曲の師匠だっが、上手を鼻にかけていた。そこに家元血筋の若い名手恩地喜多八が訪れ、鼓で勝負を挑み、その高慢チキな鼻をへし折った。狼狽した宗山は、古井戸に身を投げて自殺してしまう。 宗山の娘お袖は、詫びにきた喜多八を好いたが、喜多八の父で師匠の恩地源三郎は、彼を破門して再び謡うことを禁じた。このため、彼は門付に身を落とし、諸国を流浪する身となった。一方、芸妓となったお袖も、中途半端な藝が父の身を滅ぼしたとかたく信じ、藝者の藝を覚える気力がなく、どこも馘首となり、置屋を転々とした。 桑名で働いていたお袖は、ある夜、地廻りに襲われていた喜多八と再会する。彼女は仕舞の稽古を頼み、承諾した喜多八は、毎日、早朝の神社で仕舞を伝授した。二人が手と手を取り合って逃げる約束をしていた前夜、彼は地廻りとまた喧嘩となって、警察のやっかいとなり、約束を果たすことができなくなった。 捨てられたと絶望したお袖は、大店の身請けを承諾し、最後のお座敷に出たが、そこは、あろうことか、喜多八の父源三郎の席であった。お袖はこれしかできぬと仕舞を舞い、感じ入った源三郎は謡を、同席の鼓師が鼓をつとめた。その声に誘われて、喜多八が唱和しながら庭に現れ、気づいた小袖と固く抱擁、父はそんな喜多八を許すのだった。」
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