ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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この前、美術館に行った翌日、補習の問題で、ミュージアムについて考察した文章(松宮秀治「ミュージアムの思想」)を解いた。 これも、「想っていると、向こうからやってくる」的な出会いを感ずる。 ミュージアムというのは、巧妙な思想・制度で、ものを集めるという私的行為に公的価値を賦与し、西洋近代が創出した諸価値を、西欧中心の価値体系に一本化、世界を一元的秩序世界にしてしまおうとする目標を持っている、極めて政治的な行為である。 その意味で、非西欧諸国が持っていた独自の価値観を、病原菌のように浸食させていく攻撃性と暴力性を持っている。西洋近代を受け入れた我が国では、明治期以来、こうしたネガティブな側面でミュージアムを捉える感性を失ってしまったが、もう一度、我々は、西洋近代を相対化する視点が必要ではないかと訴えて、出題範囲は終わっている。 途中、例として、幕末の遣米使節団参加の一武士が、ミイラの展示をを観て、鳥獣と等しく人骸を並べることに、「礼」の欠如を感じ、不快感を露わにしている日記に触れ、この反応は、東洋人の感性として、よく理解できると作者は述べている。 こんな発想では、我が国で科学が発達しなかったのは当然という気がしてしまうが、これを、頑迷な前近代的思想と一蹴して終ってよかったのだろうか。そうしてしまったのが明治以降であったのだが……という思いが湧いてくる。 確かに、大英博物館は、全世界の文化遺産をを網羅的に並べて、結果的に英国の輝かしい世界制覇の歴史の誇示という役割が与えられている。また、アメリカのスミソニアン博物館は、大統領選の紙吹雪まで保存する、アメリカ流プラグマティズムが発揮された蒐集を旨としており、そこに、両国博物館の思想に微妙な差違があることも面白い。 だが、その記録重視主義の基底に、エノラ・ゲイを展示して、原爆が我々を戦勝に導いたのだと参観者を教化し、自国の行為を世界的に「正論」化する役割を与えるといったような、単純なまでに「光輝なる」自国イメージの補強に意を砕く思想があることを考えると、西洋美術の普及というレベルで留まっている日本のミュージアムの思想は、やはり、意志薄弱だと言わざるをえない。 もちろん、私は、我が国も国威昂揚的な展示が必要だと言っているわけではないし、アメリカの精神を浅薄だと非難している訳でもない。アメリカの、この自己肯定的精神こそ、若い多民族の集合体を、短期間に世界の宗主国に主導したマジックであることも十分に承知している。 例えば、これがベストと思っているわけではないけれど、先ほどの、「人倫」思想の基盤となっている中国哲学などが、もう少し、西洋流価値観に対峙できたならば、ひとつの世界観として、西洋から尊敬を受け、世界史はもっと東洋の国々に優しかったのではないかと思うのだ。 ミュージアムの展示には、参観者に「どう理解してほしいか。」という意図がある。今回のバロック絵画展など、よく意図され、効果を上げていたよい企画だった。しかし、これは、多くの展覧会で、強弱の差こそあれ、いつも検討されていることである。 しかし、「その展示から何を発信するか。」となると、確かに、展示品の充実だけではどうにもならない。主催者の、もっと大きく言えば、国としての強烈な「思想」がいることに間違いはない。
あ、とすると、十四年前、某新聞社主催のあの展覧会などは、珍しく強烈な思想を発揮していたのではなかったかと思い当たった。 つまり、あれは、「金儲けの思想」。 タイトルが「黄金」のエジプト展。展示品が金細工だらけというのも象徴的で、実に現世欲望的。展示と思想がぴったり一致して、間然する所がない鉄壁さである。 県立美術館史上空前の1ヶ月で13万人を動員したのも、宜(むべ)なるかな。
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