ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2005年07月01日 :: (つづき) |
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この他、文部省唱歌の成立に絡んで、作詞者が匿名になっている場合が多く、それもあって、教育の名のもとに、勝手な改竄が横行していることも、以前から知っていた。 例えば、「春の小川」(岡野貞一作曲)の「さらさら行くよ」は、もともと「流る」だったということは、かなり有名な話だ。私自身、子供ながら、この歌を習った時、違和感を持ったことをはっきり覚えている。この曲、高野辰之博士(1876〜1947)の詞で、彼が、明治期、日本の音楽教育に輝かしい業績を上げたことは、以前訪れた、信州野沢温泉「おぼろ月夜の館(斑山文庫)」で勉強して知っていた。これなど、作詞者に対して失礼だし、識者の多くも改悪だと主張しているにもかかわらず復していない。「改むるに憚る事勿れ」である。 文語を一切音楽教育から駆逐して、具体的に、何かメリットがあるのだろうか。「流れる」という言葉は、「流る」という言い方もあるのだなという程度のことがわかるだけで充分である。日本人が、一生、文語と無縁ならば、それでもいいが、中学三年からは勉強する。生徒は、古文を習う初期、「流れる」から「流る」の移行に、昔にくらべえらく手こずっている。それならば、そんな「言葉の無菌状態」にしておく方が、よほど問題ということになる。 斎藤孝「声にだして読みたい日本語」(草思社)によって、音読の復権が叫ばれて数年たつ。あの時、幼稚園で「寿限無寿限無五劫の擦り切れ」や「祇園精舎」は大ブームだった。子供の吸収力は大変なものである。それを利用しない手はないと思うのだが。
この本は「産経新聞」に連載されたもの。作者は音楽の専門家でなく記者(現論説副委員長)である。その感覚で書かれているので、分かりやすかった。 ただ、部分的に過度の「原文至上主義」的な発想も感じられた。「蛍の光」三番四番に見られる「へだてなくひとつに尽くせ国のため」などの歌詞も、明治十四年に出来た当時の国威昂揚の精神を、いたづらにカットせず、「時代背景まで教えるのが教育」であるというのは、明らかに行き過ぎである。免疫のない子供らに、現在の大人が、正しいフィルターをかけて提示する、それが教育である。軍国的歌詞の歴史的意味合いは、大人になってから判断すべき部分である。
誰でも知っている童謡・唱歌だが、大抵は一番くらいしか知らない。今回、はじめて全番知ったものも多い。その中で、特に「かなりや」(成田為三作曲)の歌詞に惹きつけられた。「唄を忘れた金糸雀は(中略)いえいえそれはなりませぬ」と、中間部を替えたパタンを三番まで続け、最後の四番で、「象牙の船に銀の櫂、月夜の海に浮かぶれば、忘れた唄を思い出す」と結ぶ。三番までは、四番に至る長いプロローグで、四番で、この詩は、一遽にシュールレアリステックな絵画的イメージに結実するのである。童謡の歌詞というのは軽視されがちだけど、西条八十という詩人の凄さをはっきり理解できた。 「赤い靴」も同様。人身売買的な匂いがするので、掲載不可になっているようだが、背景に複雑な物語を感じる。歌詞は、その大きなストーリーを想起する端緒のような役割である。どんな物語か。それは決まっている訳でない。各自が想像するべきものである。 こんな非現実主義的な抽象の世界や、ゾクゾクする物語世界のとば口を、昔の子供は歌っていたんだなと思うと、大人の配慮を押しつけられている今の子供が可哀想でならない。 「昔に比べ、幼くなった」「学力が低下した」「想像力がなくなった」 みんな大人がレールを敷いたことである。
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