ものぐさ 徒然なるままに日々の断想を綴る『徒然草』ならぬ「ものぐさ」です。
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2005年05月16日 :: 中沢けい「親、まあ」(河出書房新社)を読む |
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職場の都合で土曜出勤。そのかわり13日の金曜日が休みとなった。西洋的には縁起の悪い日である。斎戒沐浴して自重すべきかとチラリと思ったが、ここは日本、「物忌みの日です」と言われた方が、外出は控えようと思う度合い大かもしれない。 久しぶりの平日の休日、天気もよい。有効に使わねばと、午前中、K市民病院で内科の受診。行ったはいいが、混んでいて半日つぶれてしまう。 そこで、待合い廊下の書架に置いてあった本の中から、中沢けい「親、まあ」(河出書房新社1994.1)を選び、消閑の友とする。行き当たりばったりの読書も楽しいものである。
タイトル通り、子育てに関するエッセイを集めたもの。十年前の著作なので、今は子どもも大きくなって、手が離れているだろう。子育て中の親としての実感を、うまく掬い取ってある。女親しかわからない、子との微細な心理と距離感。また、それを、今度は、自分と亡くなった両親とに当てはめる。そうした上の世代を見つめる目と下の世代を見つめる目が錯綜しているところに、作者の位置がある。子を育てることは、そうした受け渡しの中の自分を見つめるということなのだろう。 ただ、読み進めると、マンションに「私一人に子二人」とあるので、旦那はいないことがわかる。家族を論じていて、縦の関係は細やかに語られるのだが、そうした横の関係の視点が切り捨てられているのが気になった。いないのだからしかたがないが、そうした機微を語ることをしていないところに弱さがあるように思った。 この本、全部を読んだ訳でない。エッセイにしては読みにくいと思ったからである。だから、読みやすそうなものだけ拾って読んだ。 実感を語る部分、心の動きを細やかに描写してあるのだが、それが、うねうねと段落なしでつながっている。数珠つなぎに湧き出る思いを文体として定着させたような文章で、理屈の部分もそういう傾向だった。それが彼女の文体なのである。 読みながら、彼女のデビュー作「海を感ずる時」(講談社1978)を思い出す。高校生の時書いたこの作品で彼女は「群像」新人賞を受賞し、ベストセラーになった。同い歳でもあり、すぐに買ってきて読んだ覚えがある。その時も、こうした心理分析的な、緻密な文体が印象的だった。ただ、内容は男性にとってはあまり面白くなかった。文系の女性向けといった印象である。「野葡萄を摘む」(講談社1981)「女ともだち」(河出書房新社1981)までは読んで、どうも私の趣味ではないと、以後、読まなくなった。今回、彼女の文章を読むのは、だから、二十数年ぶりであったが、文体的にも内容的にも同じ印象であった。 小説はそれでよい、それが芸術としての命なのだから。でも、エッセイの方は、もう少し、読みやすいほうがいい。時に1頁段落なしのところもあったけれど、せめて、もう少し段落をとるだけでも読みやすくなるのに……という箇所が時々あった。
1978年、「海を感ずる時」出版の時、彼女は明治大学の学生さんで、口写真に全身ポートレートが載っていた。ちょっと早見優似の知的なお嬢さんである。この作品で印税がかなり入ったので、お金に不自由しない学生生活を送っているというエッセイを、そのころ新聞か何かで読んだことがある。ご多聞に漏れず、金欠病の学生生活を送っていたので、ノンシャランと語っているのが、ちょっとうらやましかった。 時は流れ、昨年。中高年向けパソコン雑誌を買ったら、彼女へのインタビュー記事と写真が載っていて、久しぶりに彼女の名前を見た。公式WEBサイト「豆畑の友」もお持ちで、ワープロソフトの改善に意見を言ったりと、かなりパソコンにお詳しいようであった。 ただ、ただである。 そこに写っていたのは、とっ散らかった生活感溢れる部屋をバックに話しているどっかのおばちゃん然としたオバチャンだったのである。「おや、まあ。」 あれから二十七年の歳月。
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